「宗教改革は、国家の世俗性を生み出さなかった。逆に、宗派的国家の原則をおおいに強めた」あたりはスルドイ
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ひとことで云えば「キリスト教会の普遍主義(カトリシスム)とは何かという問題に多くの頁を割いたローマ・カトリックの歴史の概観」という感じ。「人類史における普遍としてのヨーロッパ」を理解するひとつの土台を提供してくれるというか、学部の学生さんなどがさっと理解できるような本。
アイルランドに関して《アイルランドはローマ世界の圏外であり、社会の全体が田舎的である。都市がないために司教を中心とする制度は修道院におかれて、そのような修道院を基礎として教会が組織された》(p.19)なんてのは面白かったな。西ローマ帝国崩壊後の世界では、ゲルマン人や他の部族はアリウス派のキリスト教徒が多かったのですが《これらの王国において、カトリックの仲間に加わることは、「ローマ人」とゲルマン人、旧世界と新来者の統合を容易にした》(p.47)というのも忘れてはならない視点だなと。宗教改革から啓蒙主義時代にかけての世界を、それまでの神の国に対する「文学の共和国」と「科学の共和国」の拡大とみる見方もなるほどな、と。
権威主義的な宗教から紆余曲折を経て《楽観的で親切なキリスト教》(p.120)への変身をローマ・カトリック教会は目指すことになりますが、考えてみれば、これも普遍主義ゆえのことなのかも。実際、1960年代の第2バチカン会議がもしなかったとしたら、ローマ・カトリックは保存すべき無形文化財みたいな形でしか残っていなかった可能性もあるんじゃないかな、と思うから。