想像通りの意外性
★★★★☆
「終わらない夜」「真昼の夢」で魅せてくれた、錯視による幻惑的世界の第三弾。
見慣れたせいもあり、今回は割とマイルドだなあというのが、素直な感想です。
例えば本書の表紙ですが、物理的には成り立つでしょ?
「終わらない夜」の表紙では、水面が歩く女性の姿に変化するといった、
物理的のみならず魂までも揺り動かされる悪夢的描写が強烈でしたけど・・・
錯視の技法もパターン化されて、やや鼻につき始めたのが残念なところ。
そんな反動もあり、絵に添えられた短い文章に、かえって味わいを感じました。
一文を紹介いたしますと、
「ほら、ここは 硬い水 ながれる光 足もとを 凍った空が ながれていく。」
あなたならどんな場所を想像しますか?
二度あったこと。
★★★★☆
三作めともなれば飽きが出て来そうなものだが、
幸いにしてわたしにはまだ新しいものを楽しむ能力があるらしい。
だまされているとわかっていても、
ゴンザルヴェスの絵を見ると嬉しくなるのだから。
頁を繰れば、すぐにその不可思議な世界に引き込まれる。
精神的に疲れた日などは特に、彼の絵の登場人物になりたいなどと夢想する。
トレッキングをしているつもりが遺跡探索に。
波乗りの白い泡が山の万年雪に変わる境に。
うたた寝をしているソファーには打ち寄せられた貝殻がまとわりついている居間に。
そんな場所にいたいと思わされてしまう。
じぶんが楽しむ能力を発揮しているのではなくて、
ゴンザルヴェスに引き出してもらっていることに気がつく。
この本を開いているときは、じぶんに現実からの逃避をゆるす。
なお、原書のページでは四枚のイラストが見られる。
『錯視芸術の巨匠たち』という本にもゴンザルヴェスを紹介した章がある。
こちらは二十人の作家が取り上げられているので興味のある方は参照されたし。