ある科学者が発明した生体素子を、自分の身体に注射して持ち帰ってしまう――きっかけは些細なことでした。しかし彼の身体の中で知性ある細胞(ヌーサイト)が育っていきます。前半は、目に見えないヌーサイトに身体を侵略されていく、人類側の恐怖が描かれます。この作品はもともと前半部で独立していたそうで、パニック・ホラー小説としてもよく出来ています(156ページまでの展開がもの凄く怖いです。私はSARS騒動のとき、思わずこの小説を思い出しました)。
後半は、ヌーサイトによって変化した世界が描かれます。この展開に対しては個人によって評価が大きく変わるでしょ!う。新しいビジョンは生理的嫌悪感を催すものですが、美しいとか気味が悪いとかいう、従来の「人間的な」感覚の入り込む余地はありません。何しろ世界は変わってしまい、人間の存在のあり方も変わってしまったのだから。
この価値観を突き放す行為こそSFの醍醐味ですが、その点、本作は「ここまでやるんか」と言うくらい徹底しています。SF好きでなくとも、じゅうぶん一読するだけの価値がある小説です。