しかしながらそれを選んだ理由は明かされることなく
彼女は記憶を失ってしまう。
記憶を失った彼女が出会う人々は優しく、他人ながらも彼女のために世話をしてくれたりする。
幸せな世界、でもそれはエキセントリックな世界だった。
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ふと過去を思い出して、そのころの自分はいまでは常識的にありえないことをしてたなぁとか思うことってありませんか?
そこに至る過程はとても自然で自分の信念に基づいて一生懸命生きてて、
その生き方は今も変わらないはずなのにぜんぜん違う世界で生きてたなぁ、っていう感じ。
この本も気がついたらものすごい世界にどっぷりつかってます。
ありえない、でももしかしたら似たようなことはあるかもしれない
現実ととても近い異世界のお話です。
記憶を失う前の千寿・beforeと失った後の千寿・after。この区別に
よって千寿は仮想的に腕が四本ある女の子なのであるが、それにお互いが
気づかない。
これだけの哲学的な設定を考えるだけでも凄いのに、多様な解釈が考えられ
るストーリィだがどんな解釈をしても少しだけ矛盾する。私はこれは作品が
不完全だというのではなく、作者が作品に意図的に仕込んだ罠だと解釈する。
「どんな解釈をしても微妙な矛盾を含む」というのが作品の基本的な性質だったのだ。
これは駅の時計が指す時刻に至るまで周到な計算がなされていることからもわかる。
これによって作品は読者の前に投げ出され、脳天ぐるぐるする読者はひたすら
踊らされるのだ。