神話を研究する者が境界の神にあまり関心を持たないのとは対照的に、民俗学者は決まって境界(で生きる人)に触れたがる。それだけ魅力的なテーマだということなのだが。一言で言えば境界とは世界の隅っこである。しかし、それゆえに異なる世界が接しあう場所でもある。それが神の世界なのか、冥界なのか、魔の領域なのかはわからない。ただ、仮にそれが地理的平面的なものであろうとも、人は境界を意味し得る場所で、この世ならざるものが出現しては行きかい、すれ違う、そうした瞬間を感じ取っていたのである。いったい境界とはいかなる場所なのか、そして境界で生きる人々とは。
著者が述べるとおり、大変地味な内容だと思う。ただし境界というテーマについて、中世だけでなく、古代の『風土記』の世界から論じて、その古層を掘り起こしていることには魅力を感じる。