アメリカ文学の最高峰
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本書に収められている作品はどれも、独特の息苦しさのようなものを感じさせます。アメリカのブルーカラー層の生活や抱えている問題を、これほどまでにリアルに深くえぐった描写は見事としか言いようがありません。
表題作も強く印象に残りますが、個人的には「他人の身になってみること」が、ひたひたと迫ってくるような何とも言えない恐ろしさを感じさせました。
カーヴァーの作品はリアルな一方で少々分かりにくいところもあり、日本人には伝わりにくいところもあるのは否めません。村上春樹さんの翻訳は、原文に忠実に物語の魅力をそのまま伝える一方、かなり難解な短編の題名については分かりやすく工夫するなど、カーヴァーの魅力を余すことなく伝えています。詳細な解説も物語をより深く理解するのに役立ちます。
もう一度じっくり読みたくなる本
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こうして読み終えてみると、一作一作にそれぞれ大なり小なりの「棘」を感じました。それは、それぞれに取り上げられていることが、程度こそ違え自分の中にもあるものだからかも知れません。
読みやすいので、1、2を一気に読んでしまったのですが、時間をおいてもう一度じっくり読んでみたいと思います。一節一節に読み落としてきたものが沢山あるような気がします。
全作品の中で気に入ったのは、「隣人」と表題作の二編です。
両作品の共通点は、前者は隣人に対する憧れ、後者は妻への疑惑と、共に、潜在意識があるきっかけで一気に表面に現れてくるという作品です。研ぎ澄まされた表現で見事に描いています。
素晴らしい作品でした。
短編の名手
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ここまで上等な短編を書ける作家が日本にいるだろうか。
少ない動きとその会話から独特の空気を作り出して、絶望的なことは書かずにその人の絶望をまざまざと浮かび上がらせる、小説家がやらなければいけないいちばん基本的なことで、いちばん難しいことを、カーヴァーはこの短い小説の中で見事にこなしている。
表題作もいいが、「他人の身になってみること」と「ジェリーとモリーとサム」とがすばらしい。他人の身はもうホラーか、と思えるほど怖く、ジェリー〜はべつにショッキングな話ではないけれど、とにかくショックを受けた。
お静かに願います
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「静かにしてくれないか」「頼むから静かにしてくれ」。題名が違うだけで、同じ作品とは思えない。訳文の難しさは、翻訳者がどういうニュアンスで作品に接しているかだと思う。村上さんはカーヴァーと心の奥底までふれあい、彼の人生そのものを表現しきろうとしているように思える。
心の叫びを短編の中に込めたカーヴァーの作品たち。編集者によって不本意な形で世に出された作品たちが、日本の地でその光を放ち直している。