ナイーブな観点からの脳科学小話集
★★★☆☆
入門書や講演などでよく取り上げられる,現代脳科学に関する有名な小ネタを,クオリアをキーワードにして,気ままに述べたもの。ミラーニューロンやカプグラ妄想など,あちこちでお目にかかるおなじみの話が一通り載っている(それをまるで自分が探してきたとっておきの話でもあるかのように述べるな語り口や,ありきたりなたとえ話など,文体はかなり恥ずかしいが)。
ただ著者が脳科学の専門家でないのが災いして,一つ一つの解釈があまりにナイーブなのは読者に失礼なほど。科学史上にも思想史上にも定位できないまま,自分の興味にあうだけの意味しか読み取れていない。もっとも,そのせいで茂木ワールドをたっぷり堪能したい方にはお勧めできる一冊だといえる。
副題はない方がよかった
★★★★☆
最近の脳科学の画期的な進展を一般の人に紹介するまじめな本である。脳の内部に立ちいたってその働きを科学的に記述できるようになってきているのは、まことに驚くべきことである。とはいっても、著者も認めているように、それは「私」という自我意識の存在理由を説明することとは程遠い話であろう。自我意識が現れるのは、ニューロン多体系の相転移のようなものであろうから、多重人格者を調べるとか、もっと別なアプローチが必要と思う。本書の副題は、ハッタリ的な感じで、著者の気持ちとはずれている。出版社が勝手につけたのではないか。
本書p.138に面白い数学の演習問題があった。「一定速度で飛行する鳥が目標物体に到達するまでの時間は、目標物までの距離も鳥の飛行速度も使わず、その物体の視角とその変化率(視角の時間微分)だけで表せることを証明せよ」というのである。高校でちゃんと数学を勉強した人ならできるはずだよ。
世に目新しきものなし
★★★★☆
脳の科学の進展は理解できたが、つまるところ「心脳問題」は「心身二元論」であり、感覚のクオリアの説明は、小林秀雄が言った『「花の美しさ」というものはない。「美しい花がある」だけである』という言葉と同様であろう。また、志向性のクオリアとは、意識とは「〜についての意識である」という現象学の基本的認識を言い換えたに過ぎない。果たして、人間の内面に関する探索は進歩しているのか、新しい概念を持ち出す前に、従来から思索家、哲学者が言明していたことに思いをいたしたほうが、遠回りのようであるが、かえって新紀元を開くことになるのではないだろうか。
心は解明されていない
★★★☆☆
本書の帯には、「喜怒哀楽のしくみを解き明かす!」とあり、どう解き明かされたのか、期待して読んだのですが、
結局解き明かされていませんでした。
著者の考えというよりも、現在心を考える上で確かめられている、様々な現象・
実験結果・症例などを寄せ集めたといった感じで、核心に迫る仮説の提示もありませんでした。
中には、集団行動をとる動物が、人間が感じる共感に近い意識を持っているといった、
ちょっと眉唾的な報告も混じっています。
(蟻や蛍にそんな意識があるとは思えない)
ダマシオ氏のほうが、仮説ながら核心に迫っています。
「無意識の脳 自己意識の脳」を薦めます。
感覚的、志向的クオリアへ
★★★★☆
「心がいかにして脳から生まれるかという問題については、答えが出ていない」そういう中で、探求を続ける茂木健一郎先生を尊敬します。2001年時の先生の信念、考え方、そういう考えに至った過程が著されています。