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栄光なき凱旋〈下〉 (文春文庫)

価格: ¥700
カテゴリ: 文庫
ブランド: 文藝春秋
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絶望から繋がる希望 ★★★★☆
敵軍、しかも自分のルーツがある日本兵を何人も殺して戦争の英雄となったのに、かつての殺人事件で裁きうける。けれども、上巻で登場した「あの人たち」がヒューマニズムに溢れる振る舞いをしてくれて一筋の光が見えてくる。

ヨーロッパ戦線での激戦で戦死することで初めて「アメリカ人」として認められる日系人。あまりに過酷な歴史の渦に巻き込まれてしまった2世たちは終戦によってようやく希望が見え始める。

でもお互い取り返すことができない犠牲を払って、後になにが残ったのか、という虚しさはどうしてもぬぐいきれない。大河の流れに逆らったり、流されたりする普通の人たちの歴史をある意味たんたんと描いた傑作!
最高峰の戦争小説 ★★★★★
第二次大戦下における日系人の苦悩を描く超大作。登場人物は架空だが、起こったことなどは全て事実。著者の調査に感心するとともに、ノンフィクションではなく物語に仕上げることによる圧倒的な説得力とリアリティにただ脱帽。素晴らしい小説だ。
戦時中の日系人が受けた差別はなんとなく知っていたが、ここまで詳しく知らなかった。そして私がもっとも衝撃を受けたのは、ヘンリーの章で語られる第四四二連隊の実態である。帯に「地獄を見た」とあったが、ここで語られる内容は全て史実である。戦場のすさまじさ、残酷さの描写は、上巻の解説にもあったとおり、プライベートライアンを超えているのではないか。読書中に神に祈ったのは初めてである。
真保氏といえばホワイトアウトを代表とするエンターテイメント娯楽小説の第一人者である。今でも「面白かった」と思うのはホワイトアウトだが、後々まで心に残るという意味では、断然「栄光なき凱旋」である。おそらくこの本のことは一生忘れない。
最後に、今まで第四四二連隊のことを全く知らなかったことを恥ずかしく思う。
深く静かに強く心に残る作品。 ★★★★☆
上巻を読んだとき、エンターテイメント性が秀でている真保らしくない地味な真面目な作品だと感じた。
中巻では緊迫感あふれるリアルな戦争シーンに、エンターテイメントを超えた怖さを感じた。
映像はなくとも映画で見る戦争よりも生々しく伝わったし、命のはかなさ、国ってなんだろうって強く思った。
下巻を読み終えて、いろいろな気持ちが交わり、なんとも言えない読後感が残った。
これまでの真保作品のどれよりも深く、強く、静かに心に伝わる作品。
彼らの勇気が仇 ★★★★★
第二次世界大戦の始まりから、終戦の後始末までがジロー・マット・ヘンリーの青春期である。舞台は、アメリカ合衆国。もっとも大きな要素は、戦争である。また、彼らの共通点は日系二世である。
当時、自由の、また移民への最大のチャンス(生活の場)がアメリカであった。かつてのブラジルや満州の如く(ここでは侵略の概念を外す)。しかし”12・8”が、決定的に運命を変えた。アメリカにおけるマイノリティーとして支配される社会集団と見なされるようになった。貧困でありながらもひたすら働く:ジローしかり、地元密着型小売店の息子:マットしかり、エリート教育学びつつあったヘンリーしかりである。
彼らは、紆余曲折がありながらも、支配される側に踏み込み自己実現の生き様を選択した。それは潮流であり、選択の結果でもあった。優秀な彼らは、駄目もとの作戦に巧みに利用される。運よく成功する。しかし、結末は彼らのボディーは壊れ、魂は消えた。文中、侵略に成功した地域へ、いち早くジープで駆けつけるのは、白人将校たちであると記されている。まさに、社会構造の仕組みを裏打ちしていると感じました。
同じ時代に・同じ苦労をしながらも、その後楽しく老後生活を送った人も少なくはないはずである。では何故、彼らは…。私は、彼らの勇気が仇になったと思いました。
さすが真保裕一! ★★★★★
最初は淡々としていて後半半分位までは読み進みにくいが、最後はやはり読者の期待を裏切らない。

環境も境遇も異なるジロー、ヘンリー、マットが、それぞれの思いで運命を背負い、
多くの犠牲を受け容れ、すべてを失っても、最後まで守ったもの。
守る意味は何か。
第2次世界大戦中の日系移民の苦悩を通して、気高さや誇りを持つことの尊さを感じさせられる。
さらに主人公や仲間達、脇を固める人物達まで、それぞれの個性が掘り下げられており、心の痛みも痛切に伝わってくる。
どのキャラも好きにならずにはいられなかった。
アメリカ人として認められたいがための彼等の人生に、どこか物悲しさを覚えるのは、
当時の日本の姿を反映しているためか。

また、戦線での描写は、戦争映画などの画像で捉えるよりもよりリアルに鮮烈に、悲惨な状況を映し出していた。

読後は虚しさなのか、儚さなのか、切なさなのか自分でも解せない感情と清々しい感動に包まれた。
重いテーマも決して陰湿さは残さず、勇気を与えられるような真保作品はやはり最高だ。