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戦争指揮官リンカーン―アメリカ大統領の戦争 (文春新書)

価格: ¥294
カテゴリ: 新書
ブランド: 文藝春秋
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リンカーンと南北戦争を知るための良書 ★★★★★
1862年の奴隷解放宣言から1世紀半の時を閲した2009年、アメリカは建国以来初めての黒人大統領を持つことになる。オバマ新大統領はリンカーンと同じイリノイ州の出身であり、同じく国難の時期にアメリカ国民を指導することになる巡り合わせもあり、リンカーンを強く意識していると言われる。そういう今、リンカーン大統領の治績を振り返ってみることは意義のあることだろう。

リンカーンの政治家としてのキャリアは短い。南北の対立がのっぴきならなくなった時点で彗星のように登場し、危機が深まるなか大統領に当選するが、そのこと自体が開戦の引き金となる。長く苦しい内戦を戦い抜いて、ようやく勝利したわずか5日後に暗殺される。まるで南北戦争という「国家分裂の危機」を乗り切るために天から遣わされたかのような人物であり、アメリカ国民から絶大な尊敬を受けていることも当然である。

本書は、そのリンカーンの戦争指揮を具体的かつ極めてリアルに描写する。南北戦争に関する類書が少ないだけに、非常に貴重である。特に、南北戦争の主な戦場が首都ワシントンのごく近くであったということを知ると慄然とせざるを得ない。日本でいうと関東平野の中で戦闘が行われていたという感覚だ。そんなふうに、本書は「南北戦争」という、今日のアメリカをアメリカならしめている歴史的「事件」について、生き生きと教えてくれる。もし、「南部連合」が「独立」を獲得していたら(それは十分に「あり得た」ことなのである)、その後の世界の歴史はとんでもなく変わっていたに違いない。じっさい米国内では、そういう「南軍もし勝利せば」という架空歴史フィクションが多数書かれている。

南北戦争とイラク戦争を関連づけようとするあたりの筆者の議論はやや牽強付会と感じたが、史実の描写の迫力はそれを補って余りある。アメリカとアメリカ史に関心のある人には是非読んでいただきたい本である。
文官政治家による戦争指導とは ★★★★★
結果の相同性を指摘しただけで、そこに因果関係を措定するのは、基本的な誤り。
本書の随所に見られる「南北戦争が、その後アメリカが行った戦争の原型だった」という類の指摘については、個々の戦争を指導した政治家や軍人が、南北戦争の戦史を追認しつつ戦争指導を行ったという点についての実証がなされない限り(たとえば、米国の軍人向けの教科書の記載が南北戦争に偏っている等)、留保をつけるべき。
一方、評者にとっての、本書の「おもしろみ」は、まさに史実としてリンカーンが戦争指導をどのように行ったのかという記述そのものにある。文官が武官に戦争を指導するというのは、ワシントンが武官=軍人かという範疇分けにもよるとは思うが、このリンカーンによるものが、西欧文明圏では、はじめてのこと(少なくとも個別の細かい戦争指導の記録が確認できる)なのではないだろうか。その次に来るのが、ドイツのビスマルクということになるのだろうか。
よって、本書の試みは、通信手段を用いた近代的文民統制とは、当初どのようなものであったのかという点から、興味が尽きないところだ。
手ごろな入門書? ★★★★☆
今、戦争するなら通信の存在を忘れる訳にはいかない。通信の一つ、電信が本格利用された南北戦争において、戦場とリアルタイムにつながった大統領リンカーンの指揮官としての奮闘を描くことがこの本の趣旨ということになっている。
その趣旨の評価は他の方のコメントにまかせておきたい。「コールド・マウンテン」読んで、観て知りたくなった奴に大きなことは言えませんよ。むしろリンカーンに肉薄してくれたおかげで、南北戦争という未曾有の内戦の展開が手に取るように分かったことが、素人としては大収穫。一番、読みやすい南北戦争本なのかも。ただ、著者も言っている通り南北戦争勃発の原因については完全に流しているので、入門書というのは不適当か。
それにしても、冒頭の描写がすばらしい。ホワイトハウスから電信室のある戦争省に向かう案山子のように頼りなくノッポなリンカーンの姿が目に浮かぶ。後半、こうしたヴィジョンを与えてくれる描写がなかったのが残念なので星一つ減点。
電信線を伝ったリンカーンの肉声がなまの歴史を紡ぎだす ★★★★★
着眼点がいい。著者は南北戦争当時最新技術だった「電信」に着目した。
もともと弁護士であり、軍事には素人だったはずのリンカーンが、電信の便利さにすっかりハマッて、最前線からリアルタイムで報告を送らせ、将軍たちに実にこまごまと指示を出していくようになるようすが、生き生きと描かれている。南軍の妨害工作で電信線が切断されると、とたんに情報が入ってこなくなる。戦争省電信室の小さな部屋でイライラしながら情報を待つリンカーンが目に見えるようだ。
本書は、歴史の醍醐味を伝えるには、着眼点が大事だというお手本のような本である。南北戦争というと、日本語で読めるわかりやすい概説書も今までなく歴史好きが「飢えて」いる分野だった。将軍たちとリンカーンとの電信でのやりとりを中心に説き起こす本書では、リー対グラントなどの将軍たちの血沸き肉踊るエピソードと、奴隷解放宣言をめぐる葛藤や執筆秘話など、興味深いエピソードを詰め込んでおきながら、通史としても理解が進むようになっている。
一方で、本書の根本テーマは、南北戦争でのリンカーンの戦争指導が、イラク戦争までいたる「アメリカの戦争」の原型であるという著者の見立てを立証するというものなのだが、実はそれには成功しているとは言いがたい。
たとえば著者は「戦争を終わらせるためには、反乱軍の総指揮をとっているリー将軍の息の根を止めるしかない、というリンカーンのこのくだりは、ブッシュ大統領がビン・ラーディンを『捕らえるか、殺せ』と演説した言い回しと大差は無い」と述べる。だが南北戦争は近代戦への過渡期にあり、近代戦においては敵の野戦軍を撃滅した側が勝利するのであって、将軍の首は、テロリストの首謀者の首とは等価ではないであろう。リンカーンはこの場合比喩的な意味で使っているものを著者がバイアスをかけて解釈しているように感じた。