でも本書は、不吉な一篇の物語というわけではなく、26の個別な文と、緻密な白黒のペン画とで構成された、アルファベットブック。AからZまでの頭文字の副詞が、ワンセンテンスの短文の中に必ず含まれている。というより、その副詞を中心にしている点が、珍しい。
たとえば「B」なら、「The creature regarded them Balefully」が原文。「まがまがしく/こ(子)らにらむ/いきもの」という訳文に、水から上がってきたばかりの変な生き物が、桟橋の上で3人の子どもをじっとにらんでいる絵。「E」は「Endlessly(とめどなく)」で、長い長いマフラーのはなし、などなど。それぞれは独立した場面だが、全体をタイトルに結びつく1つの筋に想像力でつなげようとして、はてつながるかどうか。ゴーリーの手品に挑むもよし、あるいはお好みの場面だけ、心の箱にしまっておくのもよい。
訳文は、2から3行の縦書き平仮名。原文には必ずある主語が訳文にはなく、おまけに文頭の文字が黒丸に白抜きと目立つので、名調子のいろはカルタのよう。どのページにも、予感としての不吉は漂っているものの、ゲーム感覚で、楽しめる。(中村えつこ)