浩三は、「骨のうたふ」という詩の中でこんな風に綴っています。
「がらがらどんどんと事務と常識が流れ
故国は発展にいそがしかった
女は 化粧にいそがしかった」
戦時中に書かれたとは思えぬほど、戦後の日本を見透かしたかのような一節です。その眼力にまず驚かされます。
出征する兵士を町ぐるみで「祝い」、「撤退」を「転進」と言いつくろう、そんな時代にあって、浩三は別の詩でこうも書きます。
「そんなまぬけなぼくなので
どうか人なみにいくさができますよう」
拳を振り上げて力強く反戦を言い募るでもなく、混沌とした時代に一人の青年として大きな不安を抱えていることを、浩三は素直に文字にしていきます。
浩三の詩を初めて全国に紹介した本の編集にあたった人物がこう語る言葉に胸を衝かれました。
「私たちの世代の二十歳までの間はね、ちょっと格好をつけて言えば、すべて自分以外の目的のために生きるということが当たり前だったんです」(169頁)。
そのことの善悪は別として、そういう時代が60年前にあった。そのことがなにやらとても不思議と遠く感じられる今に生きていることを改めて考えました。