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余白の愛 (中公文庫)

価格: ¥620
カテゴリ: 文庫
ブランド: 中央公論新社
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空間を共有する. ★★★★★
「わたし」が持つ閉塞感を共有しているように読み進めました。
耳鳴りという、狭い世界の、本人だけが感じうる事を、読み手も字面を読む事で共感できるということ。
「わたし」が孤独である(入院中、両親なども現れず、ほとんど孤独にしている)ことや、終始主観で語り続けられるところ、張り詰めていない、掴み所のないような静けさ。無駄な物がない世界に、読み手を引き込み、空間を共有させてくれます。

私は、どこの場面からか、自分のイメージした像がセピアがかっていることに気付きました。また、夢の中のようだとも思いました。記憶であると気付かせる前に、雰囲気作りを行間だけで描写されているんですね。素晴らしいと思いました。

また、他の方のレビューにありました、「台詞が文語調である」というものも、私はそうした雰囲気作りのためなのだろうか、と思いました。
記憶の中の世界なので、「わたし」は相手の台詞を一語一句鮮明に覚えているわけではなく、あらましだけ、といったことになり、あのような文語的な台詞になったのではないかな、と思っていたのです。
まったくの私見ではありますが。

また、登場人物の名前を、Yや、ヒロとすることで、絶妙な具合に存在をぼかせています。

私は、最後までYの面影を感じることができませんでした。
たいていの人物は、顔の微細なつくりまでは行かないものの、雰囲気等は感じ取れるのですが。
Yの場合はそうはいかず、スヌーピーに登場する大人のように足だけが見えているようでした。

とにかく作中に漂う空気感がなんとも言えず美しく、儚いです。
そしてすごく計算されています!
明るい余韻を残します ★★★★★
文庫の表紙の絵は内容とよく似合っている。
雨が降るように静かで、青空を包んだ曇り空のように、
落ち着いた穏やかな物語。

耳を病み、恐らく心をも病んでいる主人公は
一度自分から離れてしまったものは
もう二度と戻らないのではないかという不安を抱えている。
それは例えば声のように、去っていってしまった夫のように。
突発性難聴の耳は音を判断することができず、
心はまた現実と記憶とを区別できない。

不安定な彼女を支えるのはYと甥のヒロ。
二人は架け橋となり、食事をしたり話を聞いたり手を引いたりして、
明るい方へ彼女を導く。
たまに立ち止まったり、記憶の奥に戻ってしまったりしてもいい。
世界へ出るということは強さではない。
尊重、肯定の心なのだ。
全てを受け入れられる安心感と現実の明るさ、
しかもそれは本人の内から出すことができる、と
言われているように思う。

作者はYのように世界をくっきりと文字としており、
どのシーンも映像が浮かぶ。
冬の光のような、鈍いが確かに明るい余韻を残す。

これが一番好きです ★★★★☆
主人公と速記者。そして主人公の弟の物語です。
淡々としていて、でも哀しさが読み終えた後にどっときました。
この後にも素敵な小説をたくさん書かれていますが、雰囲気をただ味わえたこの本が私は好きです。
彼女の作品を好きな方は読んでほしいと思います。
幻想と現実 ★★★★★
 入り混じる幻想と現実。作品の雰囲気は同著者の「冷めない紅茶」に似ていた。違う点は読み終えて全ての謎が解決する所か。
 小川洋子の作品としては「博士の愛した数式」と同じくらいわかりやすい話であり、個人的には非常に助かった。このような作品を読まないと「私は小川洋子の作品をまったく理解できないのか?」と自己嫌悪に陥ってしまう。
 それでも私は小川洋子の作り出す冷たく、綺麗で、幻想的な世界が好きなのだけれど...
感情移入がしにくい物語 ★★★☆☆
「博士の愛した数式」を読んだときにも感じたことですが、物語中で交わされる速記者Yと主人公の女性の会話が、妙に文語的で感情移入がしにくかった…。

更に物語全体が非常に幻想的な雰囲気を帯びているにも関わらず、様々な設定だけは(不必要と思われるほどに)かなり詳細に描き込まれていて、これも何だか逆効果だと感じました。
時代はいつなのか、どこの国お話なのか…その辺をもっとぼかして描いてくれたほうが逆に読みやすかったのでは、という気がします。

ネタバレしてしまうと困るので書けませんが、ラストの落ち(速記者Yの正体)も「えー…何それ?」という感じでちょっとがっかり。