民俗学ミステリー
★★★★★
民俗学の謎と現在の殺人事件を融合させた、民俗学ミステリー
異端の民俗学者那智(しかも美貌)と助手ミクニの活躍を描く短編集
ホームズ=女王様とワトソン=下僕のコンビ誕生
シリーズ第一作
民俗学ネタがフーダニット、ハウダニット、ホワイダニットともしっかり絡んでいる
冬狐堂シリーズの「狐」も登場します
《蓮丈那智》シリーズ第1弾
★★★★★
◆「鬼封会」
明治期の廃仏毀釈運動を背景に置くことで《鬼封会》と
ストーカー事件の構図が、それぞれ反転していきます。
◆「凶笑面」
倉の中で、骨董品業者がガラスビンで頭部を殴打され、殺害された。
現場は、ビンのなかにあったビー玉が散乱した状態だった……。
警察は、倉の鍵を持つ当主の女性に容疑をかけます。
彼女は足が不自由なのですが、二階からガラスビンを
落とせば、犯行が可能だろう、という考えからです。
こうした凶器は、犯人が当主に容疑を向けるために選んだものですが、
犯人にはもう一つ別の目的があったというのが本作の読みどころです。
◆「不帰屋」
フェミニズムが専門の社会学者・宮崎きくえが、自分の
実家である護屋家の離屋の民俗調査を那智に依頼した。
きくえは離屋が、生理中の女性が家族と隔離されて
暮らした「不浄の間」であったことを証明したいらしい。
しかし、そんなきくえが、離屋で遺体となって発見されて……。
加害者の足跡がないという《雪密室》なのですが、
トリックのキモは、離屋の特異な構造にあります。
このトリックによって、ミステリと民俗学がシームレスに接続され、密室の謎を
解明することと旧家の陰惨な因習をあばくことが見事に二重化されています。
◆「双死神」
《宇佐見陶子》シリーズ第二作『狐闇』の裏エピソードといえる作品。
「だいだらぼっち」伝承と古代製鉄の調査がなされていくうちに、製鉄技術と
各時代の政治闘争との結びつきが浮き彫りにされていき、さらにそこに、
《狐》こと宇佐見陶子が関わっている《税所コレクション》が絡んできます。
◆「邪宗仏」
読まないと、惜しいかも
★★★★★
私はこの作品の文庫版から北森氏に入ったが、すぐ次に手を出させるだけの筆力があった。那智先生の強力な個性には、同性としてとても惹かれる。上司にはどうかと思うけど(笑)。民俗学についても、詳しい人には食い足りないだろうが、門外漢は結構楽しめた。
北森氏の作品は、このシリーズと「狐罠」など冬狐堂のシリーズ、「桜宵」などのシリーズがあって、それぞれ微妙にリンクしているので、一応全部に目を通しておいた方がそれぞれの面白さが倍増していいと思う。
最近、那智先生に会えないのが残念。やっぱり民俗学プラスミステリーは難しいのだろうか。
伝説の中に潜む者
★★★★☆
民話や伝説から何をどのように解釈するのかと言うことなのだろう。特に謎めいた儀式に、何が隠されてきたのかという視点での推理が素晴らしい。
空想を超えた理論立てが、ぐいぐいと小説の世界に引き込んでくれる。掛け値無しに面白いシリーズなのだ。
好き嫌いが分かれるのかなぁ
★★★★☆
民俗学と推理小説の融和に文句はない。
作品世界も好きだ。
でも、ひとつ気に入らないのが、
主人公の口の利き方。
どうしても違和感を覚えてしまう。
「ミクニ」いっぱしの男性を捕まえて、
名前を呼び捨てというのに非常な違和感を覚えてしまう。
男尊女卑と言われればそうかもしれない、
また、師弟関係にあるのだからという意見もあろう。
でも、魅力的な主人公であるからこそ、
言葉使いは丁寧にして欲しいなぁ。