考古学において言語解読はきわめて重要な要素だ。文字をもつ文明ならば必ず何らかの文献が残っており、それを解読することが研究の大部分を占めるからだ。そして言語考古学のさきがけとしても、またその功績の大きさからも最も有名な仕事は、本書で述べられるヒエログリフの解読だろう。
本書では、シャンポリオンがロゼッタストーンを手がかりに、エジプトの神聖文字(ヒエログリフ)の解読を成し遂げるまでのストーリーを追っている。ナポレオンのエジプト遠征に始まるエジプト学の発生、シャンポリオンの生い立ちと彼が学んだこと、そして同じくヒエログリフ解読に挑んだ男たちとのレース。時はフランス革命からナポレオンの登場にいたる、いわば混乱期であり、多くの政治的な制約があった時代でもある。シャンポリオン自身も十分な資料を得ることができず、ときには政治的な理由で移動を余儀なくされ、また金銭的な理由に縛られるなど、多くの制約を受けながら研究を続けており、ヒエログリフ研究は何度も中断してはまた再開するという苦難の道だったことがうかがえる。
また当時の世界的なヒエログリフ研究の流れが述べられているのも興味深い。ロゼッタストーンは肝心のヒエログリフ部分の破損が激しく、多くの研究者が各々の見識に従い補完を試みているが、それらの作業が実に容易ならざるものであり、当時の研究者たちが自分たちの代で解読できるかどうかわからないほどの難物であったことなども理解できる。この仕事がいかにドラマチックで、いかに偉大なものか、あらためて知ることができるだろう。(斎藤牧人)