土地の勾配をたどる目線
★★★★★
まだ地面がいたるところで露出している頃の東京だ。草のにおいも漂い、雨が降れば泥だらけになる街並みだった。まさに地形がそのまま顔を出しているようだ。今の東京だとビルが多くて見晴らしが利かず、なんだか良く分からないことが多いし、第一忙しくて、ぼんやり散歩なんてわけにもいかないことが多い。たまたま、自分の生活区域が荷風の行動範囲と重なるところが多い。そうか・・こんなかんじだもんな・・と読みながら、その辺りの地形に思いを馳せ、今も尚残る土地の形にふと気付き、休日に散歩してみる。本書の当時は、まだまだ今日のようになるとは思えないわけで、なのに、当時の当たり前に過ぎる風景を丹念に描いていく荷風のセンスは素晴らしい。それでも当時次々に変容する風景に、荷風なりに危機感があったのかもしれない。ほんとうの「文人」だと思う。