「言葉」の重み
★★★★☆
「ゲド戦記」の訳者、清水真砂子の講演会で語られた内容を本にした物です。
たった60ページなのですが、30年に渡って筆者が、その「ゲド戦記」と言う一つの特殊な世界の中で、それぞれの登場人物の「言葉」をどう選んでゆくかの苦労が書かれています。
ル=グィンの作品の訳者だけに、一つ一つの「言葉」の重みに十分に配慮した訳であったことが良く解ります。
その他にも、物語の「意味」にまとわりついてくる物の大切さとか、ル=グィンのフェミニズムについても語られています。
「ゲド戦記」についての直接的なガイド・ブックではないのですが、その読みを深めてくれるのは確かだと思います。
硬い日本語の理由が判明するも謎は深まる
★★★☆☆
ゲド戦記の訳が読みづらいのはどうしたわけか理由が知りたくて、本書を読みました。やはり翻訳には大変な困難が伴ったようで、理由の一端が垣間見え、参考になりました。この本は講演会の内容をまとめたもので分量も60ページ足らずと、すぐ読めます。
いただけないのは、加筆、修正されているにもかかわらず、意味不明なところが多々あるところです。たとえば、筆者は翻訳にいかに気を配ったかを述べているくだりで、「辛抱」と訳したはずなのに読者から「我慢」と言い換えられ戸惑った、といっていますが、「我慢」と「辛抱」はどう違うのかわからない。辞書にはほぼ同義で掲載されており、訳者としてニュアンスがどう違うのか説明が欲しかった。こういうことは、本人は当然違うと思っているのだから、なかなか気づかない。編集者が配慮すべきだったのではないでしょか?
あと、私が知らないだけなのかもしれませんが、なぜタイトルに「戦記」という言葉を使ったのかも言及して欲しかった。また、何故「ゲド」に限定したのかも。真の主人公は巻毎に異なっているというのに・・・・。
ゲド戦記の読み方
★★★★★
この冊子は翻訳者清水真砂子さんが翻訳を通して、ル・グインの世界に付き合いながらかつ、ゲドに登場した人々に付き合いながらどう『ゲド戦記』のシリーズを読み解き、感じてきたかの道程の記録でもある。『ゲド戦記』解読本とか、ル・グインのフェミニズムの遍歴をそのまま解読したものではない。フェミニズム論としてこの作品をくくることへの危うさを彼女は感じているわけで、アースシーに生きる人たちの男や女、生と死、力と非力のなかで、その諸相を描きつつ、テナーのたどり着く地点の日常性の豊かさにゲドたちが生を見、テハヌがそれを受け継ぐことに光を当てていると思う。
清水女史と「ゲド戦記」そしてル=グウィン女史
★★★★☆
「ゲド戦記」における翻訳の苦労話とル=グウィン女史との交流が語られています。
清水女史は夫君に「あなた」で呼ばれていることなど女史の日常生活も垣間見ることができます。
本書では、主に「ゲド戦記」第4巻が話に出されています。
清水女史はフェミニズムの観点から第4巻を切り込んでいますが、
本書では充分カバーしきれていないと思います。
ぜひ清水女史には「ゲド戦記」第4巻におけるフェミニズム論に取り組んでいただきたいです。