ゲーム理論を身近な出来事として理解でき、相手のことを思える「松井本」入門書&全国民必携のバイブル!
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本書は、「高校生からのゲーム理論」と書いているように、高校生以上を対象としている。
本書を読破後、難しいことを簡単に説明する能力の高さ(絵本を書かれた経験があるせいか、読んでいて何だかホッとした)、豊富な事例(19も!)と分野の広さ(歴史、サッカー、哲学、環境問題、エア・ドゥ、論理学、宗教、etc.)、160ページ以降の展開に、読破後には放心状態になった。
本書を通じて、全国民がバイブルとして読めば日本は変わるかもしれないと思った。この本を読むことで、ゲーム理論が多分野で応用可能であること、並びに身近な出来事に置き換える(=イメージする)ことが可能であるかを再認識した。
特に、160ページ以降を読むと私が言いたいことが理解できると思う。高校生はもとより、新社会人の研修テキスト、大学の教養レベルのイチ押し、職場の勉強会もどきのテキスト、カツマーのように1冊の本を読み、ある場所でそれについて話し合う本として最適ではないかと考える。
一例を挙げると、ゲーム理論を学ぶ(!)第一原理として、松井氏は序章で「自分が当事者でありつつも、外から見る目を養うこと」を挙げていた。そして、あとがきで「相手のことを思うこと」をゲーム理論を活かす(!)第一原理として挙げている。
松井氏が挙げたゲーム理論を“学ぶ”第一原理と“活かす”第一原理は、福祉の分野でも十分に応用可能だと考える。具体的には、「利用者のことを考える」は“活かす”第一原理に相当し、「客観的な視点を持つ」は“学ぶ”第一原理に相当するのではないか?
「利用者のことを考える」は、福祉に限らずあらゆる分野に該当するだろう。相手(=お客様)のことを考えないで、一体何ができるのか?
一方、「客観的な視点を持つ」は、社会福祉士やケアマネの研修を受講すると耳にタコができるほど聞く言葉である。“利用者のことを考えつつ、客観的な視点を持つ”―簡単なようで実際には難しい。
(中略)
私も日々自問自答するが、最近になって上記に必要な考え方が何かがおぼろげながら浮かび上がってきた。それは“論理的思考力”であり、ツールのひとつとしてゲーム理論が有効なのではないかと考えている。
本書は、どこからでもつまみ読みできるよう構成されており、節単位で読んでもゲーム理論の考え方が理解できた。また、読破することで自然と自分の得意な分野とそうでない分野を把握できた。
私のような北海道民は、本書を手にとったら速攻でエア・ドゥの節(p.90-97)を読まれると良いかもしれない。
ただ、読んでみるとひとつだけ気になる点が合った。それは、高校生には少し酷なレベルかもしれないと感じたことである。
SSH(スーパーサイエンススクール)レベルの高校生には丁度いいと思うが、私のような平凡な高校レベルの生徒には少しレベルが高いかもしれない。それでも、負けず嫌いでがむしゃらに読むのもいいと思う。
1節でも理解できれば、ゲーム理論への扉は開かれるのだから。わからないところがあれば、わからない分野に詳しい先生に聞けばいい。
また、本書は慣習と規範、障害と経済、帰納論的ゲーム理論を平易に説いており、松井本の入門書にもなっている。本書を通じて「慣習と規範の経済学」で松井氏が何を言いたいかを理解することができた。
最後の“◎もっと勉強したい人のために”を見た瞬間、冊数の少なさとハードルが低くないことに驚いた。松井氏の愛情なのかもしれないし、枚数の関係かも…
他にも、ゲーム理論の著作は星の数ほどある。ただ、私が学生時代に参考にしたゲーム理論本の一部は、現在では古い考えしか記述されていないので有用ではないことを知った。
おまけとして、以下にゲーム理論の用語を箇条書きする。
(1)ゼロサム・ゲーム【p.19-20】:自分と相手の利得を足してゼロになること。
(2)チキン・ゲーム【p.20】:自分と相手の利得を足してもゼロにならないこと。
(3)ナッシュ均衡【p.22】:チキン・ゲームによって生じる安定的な点のこと。
(4)囚人のジレンマ【p.23】:協調より裏切りのほうが得すること。
(5)インセンティブ【p.103】:アメとムチ。
(6)バックワード・インダクション【p.88】:後方のほうから解いていく解き方。