千手観音のかたちの意味をより深く学べ、より親しめる本
★★★★☆
一つの身体に千本の手をつけるなんてグロテスク極まりないはずなのに、千手観音の正面写真を見つめていると、全体が調和し美しさとなってかえってくるから不思議である。
西村公朝・西川杏太郎両氏の文を読み、仏頭、手、全体の細部についての説明から千手観音に具象化された個々の意味がよく理解できる。千本の手には眼が刻まれているという。数多の衆生を一遍に個々にその眼でとらえ、その手で救ってくださる、手を替え品を替えてでも救くってくださるということを端的に見える形にしたようだ。その持物から諸仏の合体ともみられるという説明になるほどと思う。千手の拡大写真から、指のしなやかな動きの一瞬をかたちに作り込んだ仏師の技に驚き、美しさに魅了された。
山崎隆之さんの木心乾漆技法の説明がわかりやすく、仏師の工夫に驚嘆するばかり。小川瞳さんの絵から仏づくりの工程を想像できて楽しい。「招提」とは四方から僧の集まり来るところを意味するということを遠藤證圓さんの文で初めて理解した。
小川光三さんの「最後にはたった1枚の写真によって、仏さまを仏さまに写したい。」という一文が心に残る。