冒頭の『J・フランクリン・ペインの小さな王国』は、多くのミルハウザー作品のモチーフとなっている「創造への純粋な欲求」を主軸に、手描きアニメーション作家が緻密な作品を作り上げていく様子が1920年代のニューヨークを舞台に人との出会いを交えて語られ、物語の進行は保守的といえるものだけれど、その筆致は現代的でシャープな語り口によるものです。やはりこの1本目が(ミルハウザー作品を初めて読む方にも)「つかみ」としては的確な配置。他の二作品の独特な文章形式との対比にも関わらず、そこには続いた一つの世界が見えてきます〡?
柴田元幸訳ということでこの本を読んでみたという方が多いと思う(僕もその一人)けれど、『三つの小さな王国』という邦題にさえ職人的な技術が感じられる。作品を読んでほしいという翻訳者の想いが感じられる。