いかにもひ弱な男の子と、「かるほるにあ」で生まれ育った母とのある冬のエピソード。舞台は戦後間もない日本だ。ある日、母に禁止されていたのに、外に出て庭の池のコイに見とれていたせいで、男の子は風邪をひいてしまった。母は、それからずっと怒っているようだった。なにか思いつめているようでもあった。お母さんが変だ、いい子にしなくちゃ。男の子は言いつけを守って床に入っている。と、母が庭から小さな松の木を掘り出し、鉢に植え替えて部屋に持ってきた。そしてろうそくと折り鶴をそれに飾りつけながら、今日は「くりすます」という特別の日なの、といった。火がろうそくにともされて、それがこの子の初めてのクリスマスツリーになった。それは何にもまして美しかった。
折り鶴とろうそくで飾られた初めてのクリスマスツリーを、無邪気に愛でる子、そしてその子を優しく抱く母。しかしその焦点は、ツリーを通り越してはるか遠く絞られている。遠いどこか、腕に抱く子のあずかり知らないどこかに。(おおしま英美)