たとえば「サンクチュアリ~プレリュードとアレグロより」。原曲はクライスラーのヴァイオリン小曲だが、川井は「プレリュード」と「アレグロ」のそれぞれをまったく違うサウンドに仕立て上げる。前者は川井のヴァイオリンとパイプオルガンが張り合うパワフルでゴージャスな演奏、後者はハープの伴奏による慎ましやかな演奏。あまりに極端なコントラストではあるが、これで驚くのはまだ早い。「ヴァイオリン・ミューズ・ドラマテック」は、バッハとヴィターリ、それぞれの「シャコンヌ」のハイブリッドで、ボレロ風リズムも響いている。川井のヴァイオリンは熱演また熱演で、次に何が出るのか分からない、びっくり箱のようなアルバムだ。(松本泰樹)