本書は計算機システムのさまざまな部分において人間の及ぼす影響をとらえ、理論では扱えないような部分を含めたより広い視点を提供しようというものである。皮肉な見方をすれば、システムをより「わからなくする」本であるといえる。本書ではシステムの分析と設計、一般システム、観察、インタビュー技術、設計の哲学、トレードオフ、設計家の心というテーマについて述べており、これらのテーマに潜む人間の問題を分析し、それらの問題の解決方法あるいは回避方法を述べている。システムを構築するのも分析するのも設計するのも人間であり、必ず誤解や思い込み、感情によるイレギュラーな事態が発生するということ、またそのことがどれほど大きな問題であるかを本書は示している。また各テーマに用意されているエピソードは実に印象深い。
肩ひじ張って読む必要はない。筆者の経験にもとづく主張は読めば必ず納得できるだろう。理屈ではつかみきれない、システムづくりの勘どころを知りたい人におすすめしたい。(斎藤牧人)