良く出来たロマネスク美術の入門書
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初めてロマネスク美術の本を読む人。過去、とんぼの本「フランス ロマネスクを巡る旅」(ISBN9784106021206) や、ふくろうの本「ロマネスクの教会堂」(ISBN9784309760278)に物足りなかった人にお勧めの一冊です。
フランスを8つの地方に分けて、それぞれ3つずつ計24の教会建築を分かりやすい文章、的確な写真で紹介しています。
特に現地に旅行を考えている人は必読でする。
私も旅行計画後に本書と出会い、モワサック、トゥールーズ、ポワティエではミシュランガイドとは違った視点から鑑賞する事が出来ました。
なお、コンク、サン・サヴァンについては、馬杉宗夫さんの「黒い聖母と悪魔の謎」(ISBN9784061598447)も一読をお勧めします。
是非、続編とゴシックについても出版していただけたらと思います。
新しい旅と知の喜び -ロマネスクを通じて-
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「ロマネスクは十一、十二世紀の建築と芸術様式を示すために考案された名称である。
しかし、そのあり方は他のどの様式の芸術とも異なっている。
ロマネスクは、単なる建築でもなく、単なる彫刻でもなく、単なる絵画でもない。
ロマネスクは、人々が集い祈る教会に、建築、彫刻、絵画が一体化することで成功した、きわめて総合的な芸術なのである。
・・・ロマネスクの芸術が大地に密着したものである以上、その美を知り、その美を楽しむためには、その土地におもむき、その教会を訪れなければならない。
ロマネスクは旅で出会う芸術、旅する芸術なのである。」 ・・・ まえがきより
そろそろ、「旅行=おいしい食事、きれいな風景、のんびりリゾート」という図式に飽きてきた方へ本書をおすすめします。
なにかを知って、体感する。そして体感のあとに再び考えを巡らす。
人間は本来そのような知の喜びを求めているものです。
まえがきにもあるように、実際に現地を訪れてみることが重要ではありますが、本書はその前段階として、文章と写真による旅に誘ってくれます。
内容は雑学レベルではなく、確かな知識と経験を元に執筆された本格的なものです。
まずはじっくりと読んでだ上でイメージを膨らませながら、本書を手に、期待を胸に、フランスへ旅してみてはいかがでしょうか。
また、著者自身が撮影したという膨大な数のカラー写真は、「ロマネスクの本質」を探るという統一されたビジョンのもとに表現されています。
それゆえに百科事典のような寄せ集め感や、通りがかり旅行者のスナップ写真の薄っぺらさとは無縁と言えるでしょう。
本書は全編完全カラーです。もし近くの書店で目にすることがあれば、是非手にとって写真だけでも眺めてみて欲しい。
そして少しでも心動かされることがあれば、この本をきっかけにロマネスクという古く新しい世界を覗いてみるというのはいかがでしょうか。
*本書を読むにはヨーロッパの歴史やキリスト教についての知識が多少なりとも必要に思えますが、それらを同時に学んでいくのも大きな楽しみの一つとなるはずです。