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甘粕大尉 (ちくま文庫)

価格: ¥1
カテゴリ: 文庫
ブランド: 筑摩書房
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オリジナルと文庫の違い ★★★★★
満洲の歴史を知る上で、甘粕正彦を避けては全く語れませんし、表面の史実だけでなく、日中戦争の裏面史を知る上でも、彼の闇の行動を知ることによって旧日本軍の狙いが見えてきます。それだけ重要な人物ですし、闇の部分が多いが故に神格化され、恐れ崇め奉られたのだと理解しています。

近代史の知られざる一面に対して多くの関心を払ってきた角田房子の渾身の著作です。特に「満洲国のボス」ではなく、「忠君愛国の士」であり、天皇への凄まじいばかりの畏敬の念を抱いた日本人の典型として甘粕の姿は実に新鮮に映りました。本書に書かれているように「天皇と一体である国家に身命を捧げる」という目標を生きがいとした甘粕はある種のストイズムを感じさせるものでした。

ただ、惜しむらくは、この文庫には写真が1枚しかありませんが、1975年刊行のオリジナルには、9ページに渡って17点の写真が掲載されていました。特に大正12年10月8日の軍法会議の写真や、自決した彼の入棺直前の写真など非常に興味を覚える写真まではずされているのは大変惜しいと感じました。
本書が、当時の資料をおいながら丹念に人間像を浮かび上がらせようと努力した労作であるだけに、その内容の理解を大いに助けるであろう写真の存在は大きく、それがないのは画龍点睛を欠くと思われます。

とはいえ、執筆から30数年経った今でも、甘粕を語る上で本書の存在は外せないもので、この労作を読むことで、知られざる日本近代史の奥底を理解できるように感じました。
帝国陸軍軍人 ★★★★★
甘粕大尉を描いた作品です。戦前、無政府主義者を殺したとされる憲兵。そして、満州に渡り、満州国建国に邁進する甘粕。人間性豊かで、卓越した能力と見識、教養を持ちながら、天皇の国のために滅私奉公する帝国陸軍軍人の枠からは一歩も出れない限界を抱えた矛盾した存在の人間として描かれています。歴史のこと、日本のこと、人間のことを考える上で、とても面白く良い本だと思います。
複雑で魅力的な人物 ★★★★★
 「満州」というと個人的には石原 莞爾に惹かれるのだが、石原と対立した「満州の夜を支配する男」甘粕もまた充分魅力的な男だということがわかった。
  角田氏は当時の関係者に丹念に取材し、一般にイメージする「主義者」大杉栄の幼い甥まで惨殺した「残虐な憲兵」というイメージを払拭する。(大杉栄の妻伊藤野枝の話は瀬戸内寂聴氏の「美は乱調にあり」が抜群に面白いので参照されたい)
 
 恐らく軍上層部の命に従って罪をかぶったことであらわされるように骨の髄まで軍人で、天皇を頂点とする日本に命を捧げた男は、大杉一家虐殺事件を機に闇の世界に足を踏み入れる。
 後半生は傀儡国家満州国の実力者として辣腕を振い、満映では経営者としても指導力を発揮。一方「趣味は国際的謀略」と称される裏の部分については謎が多くあまり記述されてはいない。

 甘粕の魅力は一方で現実主義・合理主義で時には冷たい面もありながら、満州人や中国人も庇護し(あくまで主=日本、従=満州という範囲の中でだが)、北京の街路樹を伐採しようとした軍に対し「戦後日本が野蛮な国と誹(そし)られる」と主張しそれを忌避するなど、広い視野に立っていたことだろう。

 角田氏の筆致はあくまで冷静で事実を追っているが、文庫版の最後にある中国人留学生虐殺事件(これは甘粕とは関係ないが)についてはかなり感情を込めて書いている。朝鮮人虐殺については有名でも、これは今では大部分の日本人が知らないことだろう。

虚々実々の人物像 ★★★★★
映画「ラストエンペラー」で坂本龍一が演じていた人物は、実物の甘粕正彦氏とは全く違うことがよく分かる本です。甘粕氏が「大杉栄を殺害したのか否か」という謎は解けぬままなのに、この事件が彼のその後の人生観を決定付け、そして陸軍の甘粕氏に対する負い目が、満州国における彼の暗躍・権力へと繋がっていく過程が、よく分かりました。合理主義者であるのに絶対的天皇崇拝を捨てなかった二律背反、畏怖されながらもいつしか人を惹き付ける不思議な存在感が、彼と接した人々の証言などから検証されていきます。事件後の甘粕氏のヨーロッパ生活、満映の内情など、多角的に甘粕氏について言及した労作です。文庫化は嬉しいですが、単行本に掲載されていた満映時代の写真があれば・・・とは思います。
「天皇の赤子」が失意の先に見た夢は ★★★★★
本書で用いられている写真は、表紙にある甘粕の肖像一枚のみ。
その一枚が、甘粕の信念と苦悩と挫折を、何よりも象徴している。
それだけに、口絵はもちろん本文中にも写真の出てこないことが、
むしろ故意なのではとさえ思えてくる。

大杉栄暗殺事件の罪を自ら背負った甘粕。逃げるようにして
フランスに立ち、苦悩の日々を送る甘粕。全章の中で、フランス
での隠遁生活を扱った章が一番興味深かった。天皇に仕える者
として、罪をかぶるのは当然とは思いつつ、一人の人間として
やり切れない思いが残る甘粕の苦悩が、ありありと浮かんでくる。

以後、この事件に関して、甘粕は沈黙を保つ。

そんな甘粕が、生まれ変わる(re-born)ことを求め、新天地として
目指したのが満洲だった。五族協和の夢を掲げることは、日本人として
の甘粕の独善であったといえば、そうだろう。しかし、武断統治を志向
する関東軍とは別個の勢力が、甘粕を中心として存在したことは、記憶
するに値するだろう。甘粕には、甘粕の、満洲国にかけた夢があった。

本書で呈示される甘粕像は、どこまでも淋しく虚ろである。満洲で存分
暴れた<影の帝王>甘粕には、凄惨な暗殺事件の犯人というレッテルが、
いつまでも心のスティグマとして疼いていたのだと思える。

甘粕の生き方に共感し、賞賛したがる人には、充分満足いく作品となって
いる。甘粕を批判し、貶めたい人にも、甘粕の独善性にも触れられている
ゆえ、充分読み応えがある。その意味で、広く読まれるべき評伝として、
本書は稀有なまでに優れているのではなかろうか。ここには、甘粕ばりの、
本当の意味での「バランス」があると思う。