永遠のモーツァルト
★★★★★
「永遠の」などという滅多に使わないフレーズをここでは使いたいと思う。有名なCD(71年DG)との比較はほとんど意味をなさない。オケも独唱者も異なり、細部ではテンポ、表情が異なっていても基本スタンスに変わりはない。しかしDVDは教会での収録が曲の雰囲気を伝える上、指揮者の気迫、独唱陣、合唱団のひたむきな熱唱ぶりが画面からひたひたと押し寄せてくる(国内盤なら対訳が画面に出るというメリットもある)。独唱者はDVDに一日の長がある。ヤノヴィッツ、ルートヴィヒ、シュライヤー、ベリーというメンバーは当時考えうるゴールデンキャストというだけでなく「ベームファミリー」としてベームの意図を完全に理解している人々だ。VSOであることを懸念する向きもあろうが、懸命の力演であり、残響の長い教会での収録のせいか潤いにも不足していない。ベームはゆっくりとしたテンポ、仰ぎ見るようなスケールでこの曲を描き尽していく。その深さ、厳しさ、そして時折見せる限りない優しさと美しさは比類なく、これからも長くモーッツァルト晩年の音楽の高みに人々を誘うに相違ない。20世紀を代表するモーツァルト指揮者の、20世紀のモーツァルト演奏の到達点を示すという歴史的な意義はもちろんだが、今に生きる人々の心に(きっと将来の人々にも)深い感動を与えるものとして、広くお勧めしたい。