ここ2-3年で大好きになったBob Dylan。正月にDVDを買って見た。
何か謎めいていて透明な声。本人自身もあまり自覚していなさそうなミステリアスさ(天然さ)。なんとなく井上陽水と通じるところがあるように、自分は思っている。
現実をひとつ越えた、未来か思い出の中から聞こえてくるような声。鏡の中の世界のように、別の地点から今の自分を眺めさせてくれる声。かつて「けだし、SFの傑作とは、虚構の世界に読者をひきずりこんで虚構の世界の空気に馴れ親しませ、牢固としてぬきがたいこの世の常識主義に、一撃をくわえるものだろう」(福島正実「夏への扉」礼賛)と表した人がいたが、ディランの音楽を聴いているときには、何かまるで旅行しているような気分になる。その意味でロックンロールな声。
聞き始めたのは最近でも、やっぱり昔のアルバムのほうが心に残る曲が多い。ベスト版の選曲も多くは60年代-70年代始めまでの曲からがほとんどだ。
このライブDVDでも、気になるのは昔の曲。とはいえいつものディランのライブのように、代表曲のほとんどは原曲の想像がつかないアレンジになる。4,11なんかは早口でボソボソ、客席を見てニヤリとしながら歌う。
とはいえ、声も雰囲気も間違いなく彼のものだ。バックバンドの演奏もいいし、最近のアルバムらしく、録音もいい。多分BGVとして多くかけることになるだろうし、聞きながらフレーズの端々で曲に囚われ、そのたびに何か夢を見ているような、夢から覚めたような気分になると思う。