この歴史的な遺品は、その後ヒラー家に何代にもわたって受け継がれ、「家宝」は不思議なめぐりあわせで第2次世界大戦中、何百人ものユダヤ人をゲシュタポからかくまったデンマーク人医師の手に渡った。誰がどうしてこの骨董品をこの医師に渡したのか、それは2世紀にわたって数えきれない人々の人生をまきこんだ宝探しから飛び出た謎の1つにすぎない。
『Beethoven's Hair』はラッセル・マーティン(絶賛を博した『Out of Silence』の著者)が膨大な労力をかけて歴史の断片をひとつひとつジグソーパズルのように当てはめていった大作であり、死者の記念品が時代を超えて受け継がれるに従って、その存在によって運命的なつながりを持った人々に与えた大きな影響を記録している。その歴史的遺髪は世界中の熱狂的なベートーベン愛好家たちから崇拝され、「(ベートーベンの)魂を存在させ、驚異的に命を吹き込み続けている」真の遺品である。
このマーティンの著作は、時折19世紀のウィーンに読者を引き戻し、偉大な作曲家の彩り鮮やかな人生を垣間見せている。また今となっては、現代のDNA解析技術のおかげで、かつてはわからなかった音楽の天才となった男の秘密が明かされており、非常に興味深く、引き込まれるような1冊である。(Christopher Kelly, Amazon.co.uk)