1)ハイデガーの来歴
2)哲学史上の位置づけ(何が革新的であったか)
3)ハイデガーを学ぶことの現代的意義、もしくは応用可能性
竹田氏は、これらについて、簡潔にわかりやすく解説してくれています。
来歴については、ハイデガー年表が掲載されていますし、ハイデガー哲学の本領は、『存在と時間』にみられる実存哲学であるとはっきり述べています。その特徴は、人間存在の本質は、その人自身の自己了解のあり方によって規定されるといった考え方にあり、それまでのヨーロッパ哲学が採用してきた「超越的な根拠」(神、道徳、人間の尊厳、歴史など)を取払い、普通の人間の生活のあり方自体の中から人間的価値の必然性を根拠づけうるとした点にあるということが、とてもわかりやすく示されています。また、現代的意義については、ファリアスによる<ハイデガー=ナチ説>を皮切りに、ハイデガーをめぐる多様な視点を紹介し、その上で自説を展開しており、とても興味深いものとなっています。
竹田氏の優れている点は、思いきった言葉の置き換えにあると思います。例えば「現存在」を「人間」と置き換えている。これでは「現」に込められた意味が抜け落ちてしまうのでしょうが、まずは「現存在」が人間のことを指しているのだということを理解することが先決でしょう。大まかに掴んでからでないと、「現」の意味もくそもなくなってしまう。そのあたりの割り切りがすっきりとしているため、説明が回りくどくない。それでいて、「存在的」と「存在論的」の差異などははっきりと示されており、思わず感心してしまいます。全体の大まかな輪郭を掴んでから、徐々に細部へと至る説明の手際よさは、是非とも見習いたいものです。