初版後半世紀以上も経ているのにいまだに読む人に新鮮な印象を与える名著だと思います。人はなぜ贈り物をもらうと「お返しをしなきゃ」と思うのか？　その心理的なメカニズムを解明すべくさまざまな「未開の」（近代文明の影響をほとんど受けていないという意味で）社会における贈り物の応酬を分析し、現代にも通じる、ある意味人類に普遍的な精神の謎に迫っています。お中元、年賀状、地鎮祭といった今も脈々と受け継がれる日本の伝統行事に思いをめぐらせれば、これら「未開」社会と類似した精神構造を見出すコトのできるのは、非常に興味深いことです。また、現代における市場、契約、法律の発生という謎にも、ゲーム理論などとはまた違ったアプローチのしかたで、そのヒントを与えてくれます。　しかし、原文（仏語）からの翻訳の仕方がすこし的を得ていないというか、読むほうにとっては文章の構成、語句の使い方などがあまり整理されておらず、読みにくいという印象を受けました。moral、institution、serviceといった概念的な言葉の定義があいまいなまま、同音異義語的にさまざまな文脈で同じ語が使われていて、わかりにくいと思います。原文でも読んでみたく思います。