間違いなく,戦国時代を見る目が変わるはず
★★★★★
非常にエキサイティングな本だった。
例えば,桶狭間の戦いは,ありふれた国境争いで,偶然敵将の首を取ることができただけの戦いだった,という。通説にいう,信長による奇襲作戦を裏付ける資料は小瀬甫庵「信長記」しかないが,桶狭間の戦いにも参加したことがある大田牛一「信長公記」にはそのような記述はなく,適当な根拠が見当たらないことからすると,上記は小瀬の創作だったと考えるしかない,というのである。
資料を紹介し,その資料が信用できるものであるか否か,信用できるとして,その資料からどこまでが確実な事実と認められ,どこからが不確実な話であるのか,といった辺りを誠実に論じている。その結果,通説的な歴史像には,明確な根拠がないものも意外とある,という事実が分かる。
戦国時代を見る目が変わる一冊であった。
手際よくまとめられた、戦国時代の有名合戦に関する通説論破
★★★★☆
本書では桶狭間の戦いから大阪冬・夏の陣まで、戦国時代から選ばれた14合戦と、江戸時代初期の島原の乱、それらを合わせて15大合戦としている。川中島の戦いと島原の乱以外は信長・秀吉・家康の何れかが一方の当事者である合戦が選ばれており、厳島の戦い等は選ばれていない。したがって、本書は戦国時代終盤から江戸時代初期にかけて、合戦の観点から眺めた天下人たちの戦略・戦術の要約ということができる。いかにこれまで通説とされてきたもの(例えば長篠の戦いでの鉄砲三段撃ち対信州騎馬軍団という図式)があやふやな資料や勝者側に都合のよい俗説の流布によって歪められてきたかを知ることができる。本書は同じ著者の「戦国時代の大誤解」と重なる記述が多い。同著では簡単に片付けられていた事項(例えば現実の長篠の合戦に関してわずか4行で攻城戦としか説明されていなかった)が本書では具体的な合戦の様子に関しては地図とともに詳述されている。そして関が原の戦いではあやうく家康が武田勝頼の役を演じさせられる可能性があったことがよくわかった(同時に、石田三成は決して凡将ではなかったことも)。逆に山崎の戦いで天王山の取り合いはなかったということについては合戦以外の項目も数多く取り上げている「戦国時代の大誤解」の方が詳しい。その点、本書は読者に不親切だと思う。
本作は新書で市井の歴史ファン向けには武将たち(姉川の戦いで活躍した高天神衆等、歴史の影に埋もれた人たちにも焦点をあてている)の行動・動機・そして運・不運について真に近い姿を手際よく知ることのできる重宝な点で重宝だ。しかし、上述の点のように著者等の他の作品に精通していないとわかりにくい箇所があるのが惜しい。
説明不足と検証不足かな
★★★☆☆
戦国時代の有名な合戦を通説否定の立場から見直したものである。例えば、桶狭間の戦いは信長の奇襲ではなかった、とか長篠の戦で鉄砲3段打ちは無かったという類である。大河ドラマなどで通説的な合戦絵巻しか知らない人にとっては、結構新鮮な話が多いと思う
ただ、新書に15個もの合戦を書いているので、一つ一つの内容は根拠の記述が不充分であり、残念ながら消化不良が多い。単に通説に疑問を投げかけるだけで、筆者として結論ずけをしていないものもあり、不満が残る。
面白かったのは鉄砲3段打ちの話と、騎馬戦の話。この2点は筆者の最も得意分野らしく、この点については他の書を読んで、もっと詳しく知りたいと思った
実際の戦争とは、結構地味なものなのだ。
★★★★☆
昔の戦争というのは、その多くが古今東西、後世の者の想像で書かれている場合が多い。最大の原因として、信頼できる資料の不足がある。実際に戦争を指揮したものがその経緯を書き残すことがきわめて少なく、だいたい周辺の文筆家が戦闘の参加者からあれこれ聞いて書くのだが、参加者は自分の武功を強調するので、中には失敗が成功に転換してしまうこともある。実際戦闘シーンでは指揮官が自分の位置も確認できないほど混乱する場合も多く、戦闘全体を把握するのは、個々に独立した指揮をとれる師団が発達し、参謀本部が確立された近代にならなければほとんど不可能だった。というわけで、合戦話などというものは様々な尾ひれがつき面白く事件性を高めて宣伝されることになる。信長や秀吉や家康などの勝者は常に天才で全てを把握し、計算どおり勝つことになり、光秀や三成など敗者は失敗を重ね墓穴を掘り滅んでいく・・本書はこういった因果応報論的なありきたりな合戦話でない。本書を読めば、信長は戦術的に新しいものは何も生み出していない事。秀吉は将兵の命を生かそうと水攻めを行ったのではない事。家康の活躍は、ほとんど江戸期の御用学者の創造である事。光秀や三成は勝者に匹敵する(あるいはそれ以上にベストをつくし)最上の作戦を行った。ただ偶然、運にめぐまれなかっただけである事、信玄や謙信の単なる領土境界線をめぐる地味な戦いも、男のロマンなどなかった事などがわかってくる。実際、原典にあたって歴史を調べていくと、本当に計算どおり勝った真の名将などいるのだろうかとも思う。アレクサンドロス、ハンニバル、カエサル、ジンギスカン、ナポレオン、リー、ロンメル、パットンなど世界戦史で最高に神話化した戦歴を持つ連中でさえ、たまたま運にめぐまれて勝った場合が多いのだから、まして信長や義経クラスが軍事的天才であるわけはないのは当然。戦争とは結構地味なものなのだ。新書版ではあるが納得させる解説になっている。
戦国の戦いの実情は時代小説のようにカッコよくはない
★★★★☆
星3つを標準とした場合、「○○の真相」と言いながらも、必ずしも真相に迫りきっていないもどかしさもあるように思うのと、時折「運」や「ツキ」で説明するところもあり減点1。
しかし従来の定説や合戦譚を覆した解釈は興味深く、戦国の敗者として有名な明智光秀や石田三成に同情ともいうべき評価を与え、戦国の英雄とされる信長、秀吉とりわけ家康に対して厳しい評価をする姿勢には新鮮さを感じるので加点2。
著者がなぜこうした姿勢をとるのかということに多少関係していると思うが、あとがきに紀州雑賀国人衆の末裔であるとの記述...このコメントが楽しいのでおまけで1点。