正しい文にするには、主語を必要とする言語では、日本語のようにわかっていることは明言しない言語をそのまま伝えることは不可能だということである。また、日本語を非論理的な言語だという人があったが、「彼は手をポケットに入れた」というのにわざわざ「彼の手を」を言わざるをえない英語は、省略可能な情報までも表現せざるを得ないという点で、日本語より合理性の低い言語であるといえるだろう。
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語られない個所には、単なる省略ではなく、明言することによって対象を限定してしまうことを避ける効果もある。そのままにしておけばよい部分は、そのままにしておくという意味でもある。世界を全て理解できるものと見て、征服することを考えるのが英語であるとすれば、世界をありのままに捉え受け入れるのが日本語であるといえる。
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日本語を英語の文法で理解しようとすることや、チョムスキーのように全ての言語が同じ深層構造をもつと考えることは、このような世界観の違いを全く無視し、日本語を滅亡させるだけでなく、日本人の世界観を滅ぼすことでもある。
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日本という国に生まれ、日本語という言葉の世界で育った人間として、日本語らしい表現を失わないために、この本を読んでおきたい。