スパークスは、悲恋ないしは、一筋縄ではいかない障害を乗り越えて成就する愛をテーマに、ノース・カロライナを舞台とするロマンス小説を物してきたベストセラー作家です。この小説の障害はストーカーです。
この物語では横恋慕がストーカーの域に達するまでにかなりの紙幅を費やしており、またそのストーカー行為も昨今の視点では特異といえるような展開を見せないため、この500頁近いペーパーバックの最初から4分の3はひどく退屈に感じるかもしれません。
ですが、スパークスの第1作「The Notebook」でやはり退屈で通俗的な前半の後に涙を絞ってくれる後半が待ち受けていたことを幸いにも経験として知っているファンは、本書の「退屈」も何とか許容範囲でしょう。なんといってもスパークスの英語は平易ですから、簡易な英語で相当程度の内容が表現できることを学びながら、物語の退屈をしのぐくらいの心構えで良いと思います。そういう気構えで読み続け、結果的に私はこの小説をかなりの程度楽しむことが出来ました。
終盤ではストーカーを追う警察捜査の様子が比較的詳細に描かれていて、一種のミステリーとして楽しめるでしょう。本格ミステリーのファンには鼻で笑われるような展開かもしれませんが、そもそも本格ミステリーを本書に期待する読者などいないはずです。
私はスパークスの描く恋愛に溺れることが楽しくて読み続けてきたある種熱狂的なファンです。これはそうしたファンでなければ受け入れ難い凡庸な小説でもあるし、一方でそうしたファンであればこそミステリー色の強さが受け入れ難い付加要素に感じられる小説と言えるかもしれません。