あまりにも悲惨な国境地帯の人々の運命に涙
★★★★☆
ドーデの「最後の授業」で有名?なアルザス・ロレーヌ。行ってみると、ドイツのような、フランスのような町並み。対岸と同じ赤い石を使った教会。ライン川の対岸と同じような町並み。しかし、フランスという不思議な地方。
フランス領になったり、ドイツ領になったり、というのは、国境線が変わり言語が変わるだけではなく、第一次大戦ではドイツに徴兵され、第二次大戦では戦争当初はフランス兵としてかつての母国と闘い、ドイツに負けたため、ドイツの捕虜になり、占領され、その挙句に、敵国ドイツの国民にさせられ、あるもの不純分子として排斥(強制収容所への追放)されたり、敵国に追っ払われたり(母国フランスでも扱いはあまり良くない)、ドイツへの徴兵を拒むと射殺され、家族は強制収容所へ送られ(死亡率は高い)、ドイツに結局徴兵されると、あまり信用されていない国民なので一番死亡率の高い、また逃亡しにくいソ連戦線へ送られる。ソ連からはフランス国民は投降するなら優遇するとプロパガンダがあるが、捕虜になると恐ろしい死亡率の収容所へ入れられ、帰還もできず(そもそもが存在しないことにされてしまう)、その間国土はドイツ人に分け与えられてしまう。
戦後も、ドイツ人に協力したとの罪で断罪され、いまだに傷は癒えていないらしい。数十年の間に、財産を失い、家族を失った人たちが、一般のフランス人に比べて余りにも高い、という事実を前に、言葉がない。
最後の授業のような、話す言葉を変えるだけでは済まなかった現実。
台湾、あるいは沖縄の歴史が、これに比較的近い過酷なものかもしれないが、アルザス、ロレーヌは戦勝国なので、そんな不幸な歴史があったとは、知らなかった。
読みにくいが、クセジュにしては訳は読みやすい方かも。