心理分析がストーリーに深みを与えている
★★★★★
元シークレット・サービスのSean King と相棒のMichelle Maxwellが、CIAの訓練基地の対岸に位置する町Babbage Townに建つ暗号解読研究機関で起こった殺人事件の解明に挑む。
秘密のベールに包まれた研究機関やCIAで何が起こったのか、殺された数理学者Monk Turingや次々に殺される被害者は何をしていたのか、誰が敵で味方はどちらかが奇妙に入れ替わるなかで事態が進展していく。CIA内部で行われていた麻薬取引、南北戦争当時に秘匿された宝探し、国の将来を決めるかもしれない最先端の量子コンピュータの開発競争などが、スリル満点の攻防の伏線となっている。
印象深いのは、美貌の相棒のMichelleが抱える深層心理のトラウマ。オリンピック銀メダリストでもあり、心身ともに健康そのものと思われてたMichelleが、ある晩ワシントンの酒場で突然訳もなく自分よりも数倍強大な男に殴りかかってしまう。物語の展開とともに、ハーレー・ダビッドソンに跨る精神分析医Haratio Barnesの手によって、隠れた凶暴さの深層に横たわる6歳のときの忌まわしい過去のベールが剥がされていく。同じく、父親を殺された6歳の天才少女の心理分析も面白い。
これって、本当にBaldacciの小説?
★★★☆☆
開巻劈頭Michelleが怪しげなバーに単身乗り込み、大男相手に大暴れする。男は全くの見ず知らず。Michelleは男に大怪我を負わせ、自らも怪我をして入院。駆け付けたSeanが何とか男を宥め、示談に持ち込む。Michelleは、頭が変になってしまったのか。予想もせぬ多大な出費を強いられることになったSeanは、断腸の思いでJoan Dillingerに仕事を回して欲しいと頼み込む。その後、JoanとSeanの会話が続くが、これは『Split Second』の話がそのまま継続しているような内容で、しかも三人の関係には一切触れてないので、シリーズ前二作を読んでない方には何のことやらチンプンカンプンということになると思います。Seanが請けた仕事は、Babbage Townというシンクタンクタウンに於ける或る男の死の真相解明で、この町はCIAの施設に隣接している。・・・・・この作品にはHoratioなる精神科医が藪から棒に登場し、Sean,Michelleと行動を共にする。彼はSeanの友人ということで、Michelleの精神治療に当たる。又ストーリーの核として、Viggieなる少女が登場する。自閉症ぎみで、ピアノの名手ということだ。どうもこの二人の人物描写が、Baldacciらしくない。彼の過去の作品では、ストーリー展開の中で主たる人物のちょっとしたエピソードを絡ませ、人物造形をしっかりとしたものにしていったはずだが、今回はそれがない。しかも、ほとんどの会話文が紋切り型ときている。全体的に描写が淡白で文章に密度厚みがなく、章の切り替えは、以前ならば謎を膨らませ次に期待を持たせてといった手法だったのが、今回はそれもない。終盤は、敵と思った相手が見方、見方と思った相手が敵で、更に巨大陰謀発覚と、いつもながらのBaldacci節炸裂といった感じだが、私は読後奇妙な違和感を覚えた。まるで全体の大まかなストーリーをBaldacciが練り上げ、その線に沿ってゴーストライターが上梓したような感じだ。繊細丁寧な描写で人物像に強烈な存在感を与え、緻密な構成でサスペンス色と場の雰囲気を盛り上げるのが彼の手法と思っていたが、何とも拍子抜け。Viggieがピアノに向かう場面が何度もあるが、行間からは全く鍵盤を弾く音が伝わらない。以前の著者なら、単にplaying pianoと記すのではなく、音階や部屋に響く感じも傍で耳を傾ける者にとっての受け止め方も細かく表現したと思うが。・・・・・Baldacciとは、こんな作家ではなかったはずだが、一体どうしたの?