政治の仕組みが分かる啓発書
★★★★☆
政治が混迷する現在、だからこそ、政治のカラクリの基本に目を向け、政治に積極的に関わる必要が国民にある。そのための処方箋の一つが本書である。政治に関心があまりない人、政治がどういうカラクリになっているかを知りたい人には、読んでいただきたい。その理由は次のとおり。
第一に、民主主義は最も優れた政治制度とし、この制度の中で政治を良くするにはどうすればよいかを提言しているからである。この本は、「政治とは何か」から始まり、「民主主義」を、「君主制」(国民の負託があれば民主制なのですが)、「封建制」、「儒教思想」他の政治制度と比較しつつ論じ、「民主主義がもっともすぐれている」と結論付ける。その過程で、他の国・時代のいくつかの政治制度を挙げ、長所と欠点を指摘しながら、今の世界の様々な政治制度の来歴も説明している。これらの叙述を経て、民主主義を相対的に検証・評価しており、説得力がある。
第二に、日本固有の政治問題を指摘しているからである。二世議員の問題や、民主主義の考え方を国民が十分に理解していないこと(選出された国会議員は投票区全体の代表であり、全体のために行動すべき存在である)などを挙げ、日本において民主主義を蘇生させるためには何が必要かを、リアリズムの必要性、意思決定の方法、言論の自由(質の高い情報提供が前提であるが)の確保を挙げて、ごく簡単ではあるが説明している。
第三に、日本の政治の現状を改革するための方策をざっくりとではあるが提言していることである。二大政党制の実現により政権間に競争原理を働かせ質の高い政治を行わせること、政治家の育成が必要性であること、質の高い情報が提供される環境を整えることなどを挙げている。
これらの論、とりわけ、現状を改革するための論は、今の状況を考えれば八方塞がりの感は否めない。しかし、この考え方は基本を外していない真っ当なものであって、やり方や程度が不十分であるから結果につながっていないとも考えられる。こういう時代だからこそ、基本に立ち返り、冷静な目で政治を監視し、政治に参加するための素養を身に付け、投票を行いたいものである。
なお、本書は小泉政権発足から半年くらい経過した後に刊行された。それから時は流れているが、この本に書かれていることは、色褪せていないと私は思う。
ムラ社会・党派・西洋崇拝
★★★★★
中道に位置する社会学者の易しい政治入門書。
著者は、ポピュリズムも共産主義も社会主義も新自由主義も否定するので、どの党派の仲間ともいえない。
その点、日本ではこのような「客観的」な書物が党派には受け入れられないのだなと思う。
政治にはお金がかかることをよく承知しており、その前提から出発する。
実際数百万円の資金で国会議員に独力で当選しようとする人物がいくらいても結局は誰にも知られないまま落選するのだ。
無論著者はそれを手放しで賛美はせず、まずしっかりと認識しようというスタンスに立つ(この時点で原理主義者からは許せないのだろうが…)。
日本では極めて珍しくマルクス主義の洗礼を受けなかった社会学者である著者は、ムラ社会の利点、欠点もよく理解している。
その理解を元に改革できることは改革しようと訴えるのである。
日本の全ての学者にありがちな西洋崇拝(異国崇拝)でもないわかりやすくためになる入門書であるといえる。
小室直樹の劣悪なエピゴーネン
★☆☆☆☆
小室氏のコピーでも内容がまともならばいいのだが、「改悪」されているから始末に負えない。
民主主義の本質が「多数決」にあるという理解は端的に間違いである。これについては日本における民主主義研究の第一人者のひとり、千葉眞氏の「デモクラシー」(岩波書店)や、同じ東大卒の社会学者で探すなら、大澤真幸氏の「現実の向こう」(春秋社)などを参照してほしい。
大日本帝国憲法の理解も正確ではない。伊藤博文は天皇の地位についてははっきり意識して起草している。そんな沿革も知らないらしい。「改革編」については批判する言葉すら出てこない。
この人間が人気社会学者という以前に、どうして社会学のイロハもわかっていない人間が(その理由は「天皇の戦争責任」のレビューなどで書いたが)大学の教授になれるのだろう? 本書はところどころに一見まともな議論が挿入されているように見えるだけに、かえって読者を誤った結論に誘導する可能性がある、という意味も含めて有害だと思われる。
最低限、民主主義の根底には、「理想的な討議」(ハーバーマス)、そしてそれを支える「情報の共有」が不可欠であることは記しておきたい。
動機付けのための本。出版が一年遅れていたら売れたかも。
★★★★☆
タイトルの通り政治の本である。何か堅いことを学ぶというよりは「お前ら、度胸も教養もないくせに格好つけやがって。グダグダ言っている暇があったら動けよ!経験を積むことによって学べ!」という動機付けのための本である。堅いことを述べたものではなく、「民主主義という制度の概要」と「参加方法(ここは独自の内容)」が紹介されている意外は動機付け(尻たたき)である。緻密に計算されたとっつきやすい本だとは思うのだが、内容の割には読まれてなさそうなのが残念だ。
投票を行うとか本を読むとか、そんな普通の行動よりもずっと踏み込んだ内容なので読むと良い刺激になると思います。口に行動が伴わない人にとっては、「口だけ」を軽蔑している感もあるので、我慢ならない内容かもしれないが…。
何もかも中途半端 情報に信頼性が低い
★☆☆☆☆
政治思想を概説した第一部、日本の政治事情を概説した第二部は引用文献や典拠となる思想家が明示されていないので、どこまでが思想家からの引用でどこからが橋爪の持論なのかがはっきりしない。一気に読めるように配慮したのだとしても、ある程度は参考文献を書くべきである。
政治改革を提言した第三部は、試算根拠すら示さずに「民主主義のコストとして5000億円必要」と言い切る。国会議員数はともかく、地方議会議員数をきちんとしらべているとは到底思えない。落選第一位候補にも歳費を与えて政治活動させよとか、草の根民主主義の勧めとか、かなりいい提案はあるが、緻密な調査が伴っていないので、信頼性が低いのである。
「スタンダード政治学」のような政治学者の書いた教科書を読む方が、はるかに政治学に通じることができる。