ローマ帝国以来、アメリカほど経済的、文化的、軍事的に力をもった国はなかったが、その力をもってしてもテロリズム、環境問題、大量破壊兵器の拡散といった世界規模の問題は、他国の関与なしには解決できない。『The Paradox of American Power: Why the World's Only Superpower Can't Go It Alone』で、著者のジョセフ・ナイは上に挙げた問題など、新しい挑戦の台頭に焦点をあわせ、アメリカが他の国々との協力関係の構築に努力しなければならない理由を明確にしている。
ナイによれば、テロの脅威は確かにわれわれを驚愕させたが、強弱にかかわらずすべての国家と建設的な関係を築く努力の必要性を示す、たった1つの例にすぎない。今、かつてないほどに技術は広がることにより、多国籍企業からテロリスト集団まで、さまざまな非政府組織が力をつけてきているが、それに伴い、アメリカの指導者層も国際化する社会に向けて構築し直す必要がある。さらに、国際金融の安定から、麻薬密輸、地球気候変動、テロリズムにいたるまで、多くの主要な課題は軍事力だけでは解決し得ず、軍事力に訴えることはときとしてわれわれを目的の達成から遠ざけることすらある。軍事力に代わって今世紀アメリカが頼るべきものとしてナイが力強く提唱するのは「ソフト・パワー」、すなわち文化、価値、制度の魅力が生み出す力であるが、それもアメリカが利己的で、自国の利益によってのみ動くと考えられている限り大きな力とはなり得ない。
『The Paradox of American Power』はアメリカの力を維持し、露呈された脆弱さを今後どうやって緩和していくかを示している。確実に世の議論に一石を投じる本であり、われわれが突如放り込まれたこの複雑な世界を理解したいと願う人には必読の書である。(Book Description)