取り合えず、今まで読んだ本谷戯曲本の中でベスト。
★★★★★
本谷有希子、岸田戯曲賞受賞作。ここ数年のオール・ラウンド的な活躍ぶりを見れば、当然と言えば当然。受賞記念出版も、演劇書籍に強い白水社辺りではなく、さすがは売れっ子、大手講談社からの刊行。彼女の戯曲を読むのは、「遭難」、「遍路」に次いで3冊目。今までにも増してより辛辣で洒落がキツ〜いお話となっている。
ある新聞販売店に訪ねてくるひとりの女性。店主とは7年間の愛人関係にあると告白するこの女の出現から怒涛の如く吹き荒れる一家の本音と確執。
悪意と嫉妬が剥き出しあい、エゴと自意識のぶつかり合いが応酬するいつもながらの本谷ワールド。明るく、奇天烈に、躁鬱と錯乱、絶叫、破壊の果てに見えてくるモノとは、、、。相変わらずの混沌としたその世界観だが、今回も実に上手い。強烈な毒気にあてられながらも、可笑しさがこみ上げてくる。
読了後、ライヴDVDも鑑賞したが(舞台も面白かった)、戯曲として楽しめるし、反ってダイアローグの面白さが際立ってくる。ト書きや会話の“間”を、個々のイメージで膨らませられるし、ね。
ハイテンションな女テロリストが撃つ「ある日常」。普段、戯曲やシナリオを読み慣れていない方にも可笑しさは十分伝わると思う。
演劇界で最も注目される岸田國士戯曲賞の受賞作!
★★★★★
今、演劇界のみならず文壇にもその名が轟く本谷有希子の戯曲。
本作は本谷女史の、三谷幸喜をはじめとした芝居が上演される名門、
渋谷はパルコ劇場デビュー作であると同時に、
演劇界で最も注目される岸田國士戯曲賞の受賞作である。
「一見平穏に暮らす一家に『異物』である女が登場し、
隠されていた真実が次々と暴露される」という
あらすじだけでは本作を語るに片手落ちだろう。
多くの男性劇作家が、時代の雰囲気が大事だとか云いながら
やっぱりどこか頭を使って戯曲を組み立てているのに対し、
本谷本人に言わせれば「アドリブに近いもの」で創作された本作は
だからこそ永作博美演じた主人公の「明るくぶっ飛んだ」加減が
時代と現代人のグロテスクさを白日の下にさらしている。
読んでいて、本書を放り投げたくなるほどの
インパクトある「毒気」をこの年齢で書けるのはやはり驚異。
なんでもかんでも精神病理のせいにすれば、
ブンガクらしきものになるという風潮に、
きっぱりと背を向ける姿勢も引き続き潔く、痛快である。