果てしなく出版され続ける「漱石本」に食傷ぎみの漱石ファン達へ
★★★★★
●漱石ほど論じられてきた作家もいないだろう。著者によると漱石を専門に論じた単行本だけでも1000冊近くになるらしく、現在でも新刊本が毎月のように出版され続けている。おかげで私のようなごく普通の漱石ファンは、「まったく新しい漱石文学論」などと銘打った本が出るたびに、それが本当に新しい読みなのか評論としてまともなのかも分からないままに振り回され、納得したり不満に思ったりしているのが現状ではないか。
●このイライラをみごとに解消してくれたのが本書である。みずからも漱石研究者である著者が、漱石存命当時からカルスタ・ポスコロ系を含む現代までの膨大な単行本と論文を厳選してダイジェストしてくれるのだ。もちろん、その選定には著者の好みも反映されているにちがいないが、私は著者のバランスの良さや学問的な誠実さは信頼できると思う。こういう本を本当に待っていました。
●本書を読めば、漱石作品に対していかに様々な「読み」が時代とともに試みられてきたのかがよく分かる。それまでの平凡な読みを完全に一変させてしまうよう強力な論文があったことや、全然だめな論文が相変わらず量産されている事実も、私には新鮮だった。また、一般読者に向けて「文学研究や文芸批評とはどのような性質のものであるか」が納得できるように説明されていたのもありがたい。おかげでたいへんスッキリしました。
●「科学には上質なサイエンスライターが何人もいる。文学にもそういう人がいてくれればと思う」と執筆動機を語る著者あとがき(P363)には心を打たれた。文学ももっと開かれなくてはいけない。
果てしなく出版され続ける「漱石本」に食傷ぎみの漱石ファン達へ
★★★★★
●漱石ほど論じられてきた作家もいないだろう。著者によると漱石を専門に論じた単行本だけでも1000冊近くになるらしく、現在でも新刊本が毎月のように出版され続けている。おかげで私のようなごく普通の漱石ファンは、「まったく新しい漱石文学論」などと銘打った本が出るたびに、それが本当に新しい読みなのか評論としてまともなのかも分からないままに振り回され、納得したり不満に思ったりしているのが現状ではないか。
●このイライラをみごとに解消してくれたのが本書である。みずからも漱石研究者である著者が、漱石存命当時からカルスタ・ポスコロ系を含む現代までの膨大な単行本と論文を厳選してダイジェストしてくれるのだ。もちろん、その選定には著者の好みも反映されているにちがいないが、私は著者のバランスの良さや学問的な誠実さは信頼できると思う。こういう本を本当に待っていました。
●本書を読めば、漱石作品に対していかに様々な「読み」が時代とともに試みられてきたのかがよく分かる。それまでの平凡な読みを完全に一変させてしまうよう強力な論文があったことや、全然だめな論文が相変わらず量産されている事実も、私には新鮮だった。また、一般読者に向けて「文学研究や文芸批評とはどのような性質のものであるか」が納得できるように説明されていたのもありがたい。おかげでたいへんスッキリしました。
●「科学には上質なサイエンスライターが何人もいる。文学にもそういう人がいてくれればと思う」と執筆動機を語る著者あとがき(P363)には心を打たれた。文学ももっと開かれなくてはいけない。