本書はコンストラクティヴィズムの文献として最も受け容れられたものの一つとなっているようですが、本書が理論としてどれほど成功しているかはかなり疑わしいものがあるように思われます。従来の国際関係論の基礎となっている考え方に対して、基本的な面で異なるような現代の哲学・社会学を多く参照してはいますが、実際には両者の間を行き交おうとして、両者を折衷したというより同じところに詰め込んだという感じで、レヴュアーの能力不足もあるのでしょうが、結局は従来的な理論の延長にあるようで、時々それを超えている面もあるようなよく分からないことになっているという印象です。
また、仮にそうした点を許容するとしても、理論の具体的な仕組み自体、扱われているアイデンティティーなどの要素が理論メカニズムの中でどう作用しているのかは不明確です。おそらく本書は、この枠組み自体を具体的な分析に適用していくよりも、批判的に検討していくべきものではないかと思います。その点では、本書は量的な面から見て豊富な材料を提供しており、出発点・批判対象として意味を持つでしょうし、また、何にしても、国際関係論の中でこうした哲学的な書をある程度普及させたことには意義があるかもしれません。