読みやすい荘子
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この夏、荘子を五冊読んだのだが、森三樹三郎さんのものが1番しっくりした。多々ある荘子訳の中で、どれを読んだらいいか迷っている人のために少し書きたい。
1.森三樹三郎 中央公論社 丁寧な訳であり、森さんの誠実さをとても感じる。各段の最後に米印で解説があり、これが著者との対話にもなっていて、安心して読める。なお、以前、世界の名著で読んだのだが、この中公クラシックス版は、文字が大きくて楽だ。
2.岸陽子 中国の思想 徳間 ここに挙げた五冊の中では1番読みやすいが、超訳的で、その結果、意味が制限され、どこか窮屈さを感じる。
3.阿部吉雄 中国古典新書 明徳出版社 通の人の訳で味があるが、日本語が上手でない。
4.金谷治 岩波 片寄らない訳を心がけていて、その結果、不自然な日本語であっても、あえてそのままにしてある。著者の声が伝わってくる部分、例えば「解説」、が無いので(語句の解説はあるが、全体的な感想のようなものがない)、親しみが持てない。
5.福永光司 中国古典選 朝日新聞社 情熱溢れる好書だが、解説と本文訳が混在していて、福永さんを読んでいるのか、荘子を読んでいるのか分らなくなる。
以上五冊だが、いずれも、難しい所はこの全五冊とも、全くと言って良いほど異なる訳になっていて、唖然とする。だから、難しい箇所、変な箇所(日本語として変な所がないのは、徳間の本だけ)は、自分の解釈で読めばいいだろう。
荘子も老子も、理想人間を求めた。それを如何様にも表現できるのは、どこか分っているからだろうが、いずれも現象を実在と見る域を超えてはいない。
ストレスフルな現代を笑い飛ばす
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現代のストレス社会に対し 誠に得がたい一冊である。
荘子の視点は はるか上空にある。上空から見ると 我々のやっていることがいかにも小さく そして 愛らしいものであると語っている。我々もよく「一歩引いて 物事を見よう」であるとか「傍目八目」であるとか 良い言葉を知っているわけだが それを実践することは 誰にも難しい。自分のこととなると あまりに一生懸命で そのような冷静な視点が全くもてない。その結果 自分でストレスを作り上げて 自分で病んでしまう。赤ちゃんの自家中毒と同じである。
そんな我々に荘子は語りかけてくれる。
「出来なくたって 大した問題ではない。役に立たない木ほど長生きする。」
「どんな美人でも 魚は怖がって逃げる。美しさというのは 人間の基準にすぎない。だからどうでも良いといえば良いのだ」
「私は蝶になって飛ぶ夢を見た。しかし 本当は蝶が私になった夢を見ているのかもしれない。この私は蝶の夢かもしれない」
このような言葉が 2000年前に語られたという事実には驚愕するし これを生み出した中国も尊敬するしかない。2000年前に荘子が獲得した視線は 正に現代をも射抜いているとしか言い様が無い。
僕は この荘子こそが 人類の獲得した最大の知恵の一つであると 掛値なしに考えている。
是非 ストレスの多い方には 特に読んで欲しい。すごく気が楽になります。
なんと言ってもスタンダード
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翻訳がとても読みやすく、翻訳につけられた解説も親切で参考になる。荘子に初めて接する人にも、そうでない人にも最適なスタンダード本と言えるだろう。中国の古代思想ということで、ちょっと近づきがたいところがあるが、この本のわかりやすく的確な解説は、その背景を、かゆいところに手が届くように説明してくれるので、とてもありがたい。