あきら 沢木明 32歳 女性。旦那に依存気味の売れっ子新人小説家。
裕司 市原裕司 18歳 男性。東京に負けたと思い込んでいる浪人生。
喫茶店でたまたま居合わせた二人。バシャバシャとシャッターを切るカメラマンに裕司は憤るが、インタビュー中のあきらはそれさえ知らない。そしてたまたまご近所さんだった。あきらは御町内問題マンション。裕司は裏の築ウン十年のアパート。
ほんのちょっとの偶然が・・・ほんのちょっとタイミングが悪かったばっかりに・・・恐怖に変わっていきます。そしてハッピーエンドと思いきや・・・そこは本領発揮。そうはいかない。人間が壊れてゆく様を淡々と描きます。
ひたひたひたひたひた・・・と何かが近づいてくる、そんな表現が当てはまる怖さです。「くますけと一緒に」以来の恐怖を感じました。新井素子らしい恐ろしく読後感の悪い一冊です。心理的恐怖を味わいたい(特に主婦)方にはオススメ。
サイコホラーと分類されるこのストーリーにここまでトコトンの“素子節”。同ジャンルの『おしまいの日』の方がまだ読みやすかったと思います。
“勿論、母は、そんなこと判らない。いや、そんなことがあるだろうだなんて、想像すらできない。自分の事情だけが、世の中のすべてであり、他の人には他の人の事情があるだなんて、母は絶対思わない。”といわれる母親像が秀逸。