朝鮮戦争を包括的に記述する名著
★★★★★
朝鮮戦争を多角的視野から記述。個々の戦闘行動における戦術と指揮官及び下士官の関係などミクロな視点と、米国、ソ連、中国の政治的指導者からみた朝鮮半島の戦略的な意義付けというマクロな視点を交錯させながら、この戦争の全体像を浮かび上がらせる作品。特に、当時の米国政府の内部における権力関係や内政との絡みなどの記述は圧巻。マッカーサーの特異な人間性、アチソン国務長官との確執、トルーマン民主党政権にとっての議会選挙対策としての戦争への関与などの諸点を明らかにするとともに、この戦争の教訓があったにもかかわらず、なぜ米国がベトナム戦争に突入したのか、また、米国民主党政権にとってベトナム戦争からの撤退が政治的に不可能であったのは何故か、というより現代的な問題にも解答を与える。その意味で、米国という国の歴史的及び政治的な本質に迫るもの。この戦争の戦闘行為そのものは、すでに過去のものであるが、現在の朝鮮半島情勢は依然としてその延長にある。東アジアの安全保障環境、米国のアジア戦略などに関心を持つ方には、現在においても依然として極めて有用な視座を与えるであろう。記述が冗長であるという欠点は否定できないが、それを差し引いても、熟読に値する名著と思う。