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ショート・サーキット (講談社文芸文庫)

価格: ¥1,365
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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営み ★★★★★
電気工として働いていた著者だから書けた作品だと思う(もちろんこれは話中に登場する詳細な電気工事の描写から言う言葉ではない)。日々肉体を駆使し複雑な電気配線を辿ることによって、そこにあった、またはその先にあろう人々の生活を、主人公は見ていく。それは老いであったり、自ら生きることを放棄した者のさまであったり、風俗であったりと、実に多様だ。そのことごとく混沌とした人間の生活を見つめながら、彼は自身でもまた何かを守る責任を背負って生きていかねばならない。
〈この穴をさかのぼれば、すべての人間のいとなみにたどりつくことができる、という思いが、不意に強くおれの胸にわきあがった。(中略)そして、電気工のおれは、生きているかぎりこの穴の街を縦横無尽に駆け巡り続ける…。〉(『プレーリー・ドッグの街』より)
この、現実の厳しさを真正面から見据え、それでも生きていくことに懸命であり続ける姿に何も感じない人に用はない。
佐伯一麦の作品はおしなべて私小説であるが、私小説を否定する人は、「私小説」という響きに嫌味を感じているだけのような気がしてならない。かつて、氏の著作『ア・ルース・ボーイ』の解説で、山田詠美氏はこう述べている。
〈彼の作品は、私小説などと呼ばれているせいか、文学的なひとつの症例だと思われがちだが、実は、その症例こそが、人の心の役に立つ。(中略)抽出された作品のエキスに症例が働きかける具体性を持ち込んだところで、人は心をつかまれる。〉
〈愉快な自己肯定こそが、人を生かして行くのではないかと思う。見せかけの知性による自己否定なんて、このことに比べると、格好つけるんじゃありませんよ、と肩をたたきたくなる感じ。〉
そう、この「自己肯定」!私小説を書く人は、自身の体験をとおして、生きることの中にあるひとつの“答え”を、自身の中に揺るがないものとして得ているからこそ、私小説を書こうとするのである。頭でウジウジ考えた末に生まれる結論など、なんの役にも立たない、という感じだ。詠美姐さんご指摘のとおり、佐伯氏の小説は役に立つのである。
「私小説は自慢にすぎない」とか言ってる、人も自分もわからんような小説書いてるあいつに読ませて、「格好つけるんじゃありませんよ」と言ってやりたい。
真摯に生きること。 ★★★★★
非常に心に染み入る小説集です。
汗水たらして金を稼ぎ、家族を養い、生活を築き上げていく。形こそ違えど誰もが通るであろう人生の過程を、目をそらすことなく、丁寧に描写しています。時に残酷なほどに。
著者のその真っ直ぐな姿勢は、深く心に突き刺さります。
軽い気持ちで読む小説ではありません。なぜなら読む側にも真っ直ぐな姿勢が求められるからです。それでも、時折無性に読み返したくなる、魅力的な小説集です。
初期作品5篇が収められ、佐伯一麦入門書としておすすめです。
実生活よりも、ずっと「生」に近いところで ★★★★★
「私小説作家」として知られる佐伯一麦氏であるが、氏の作品を単なる
「私小説」として斜に構えて読むこと、その行為に孕まれる欺瞞や精神
の卑小さを、氏の作品は決して横柄でも傲慢でもない仕方で読者に呈示
する。己の生活を真摯にみつめる眼を通して描かれた「生」は、時には
人肌のようにぬくくもあり、また非情なほど冷たい。そこでは奇の衒い
などまったく存在せず、人間が営む「生」そのものが、精緻な文体によ
って屹立する。妻の出産や若くして就いた電気工の日々、一家の棲家探
しなど、極めて身近な題材を扱いながら、弛緩した身辺雑記とは、全き
一線を劃している。実生活が、その位相から根源的な「生」へ美しく昇
華していく過程を捉えた珠玉の初期作品集。