自然と共に生きる「家族」
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古い鉄塔がデジタル化の波によって、新しい鉄塔に置き換わってゆく一年間が描かれてゆきます。その鉄塔のある風景は、その周りの自然(植物、動物、鳥)の一年間でもあり、更には、鉄塔の周りに住む人々の一年間の風景でもあります。
そして、鉄塔の周りに集まる人々は、そこにある自然と共に生きる「家族」でもあるようです。
序盤は、そうした「家族」たちの一人一人を丁寧に淡々と描いて行きます。その中でも、自然の描写は、実に生き生きとしており、作者の並々ならぬ愛情が感ぜられます。
後半に入ると、そうした「家族」も、鉄塔を取り巻く人間関係だけで生きているのではないということを、いやというほど感じさせられます。主人公の息子の家出の問題が、その最も大きな出来事ですが、それに対する主人公夫婦の対応は、世間の常識に捕らわれないナチュラルなものでした。そこで、私たちはほっとさせられます。でも、実際の自分を襲ったら、とてもそんな対応は出来ないだろうなと思います。
そして、新たな鉄塔の下に、「家族」たちの団欒がやってきます。それは、新たな春を迎えるものであり、新たな「家族」の出発でもあるのでしょう。
この本を読んでゆくと、日頃の雑事があほらしくなります。もっと、自然に生きられないものなのかと思ってしまいます。
心洗われる素晴らしい作品でした。