人工言語と自然言語
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生成文法の発展の端緒を知るのによい。
ただし、生成文法の活躍を知るのには、少し材料が不足しているかもしれない。
たとえば、プログラミング言語、ハードウェア記述言語、UML/XMLはじめ多くの人工言語が、生成文法を参考にしている。
また、検討する自然言語として英語と日本語の対比があるとうれしい。
英語と日本語は似ているところがある。
一つは、イギリスがFAR WEST であり、
日本がFAR EASTだという、両方とも辺境で、
多くの文化と言語を取り入れている点である。
日本語と英語を分析すれば、世界の文化と言語の半分近くを分析できるのかもしれない。
far northとfar southがのこる。
また、バスク語やアイヌ語のように孤立しているように受け止められている言語の検討も必要だろう。
生成文法は、その根拠よりも、使い勝手のよさから、人工言語の発展に役立っているという点をどう説明するとよいだろう。
生成文法における人文科学から自然科学への発展が、自然言語から人工言語への発展という、一見逆向きに見えると言うとおもしろいかもしれない。
プログラミング言語やハードウェア記述言語において、2つ以上のハードウェアや、2つ以上の言語処理系についての両立性(Compatibility)の課題がある。
ハードウェア、言語処理系の両立性が、言語特性を縛るようなMISRA-CはSTARC RTL設計スタイルガイドのような特定の言語用の記述規則で実現しようとしている。
特定の言語用の記述規則が、言語間の両立性への糸口となりえそうなところに、生成文法の可能性で説明してあるとうれしいかもしれない。
これらの振る舞いを記述できる言語では、同期と非同期の課題がある。
ラダー図のような制御言語でも同様で、同期が原則だが、非常停止のような非同期をどう扱うかが課題である。
生成文法においては、発話は対象にならないかもしれないので、
2人以上が同時に発話した場合の取り扱いは不可能なのだろうか。
同時に2人の言うことを、それなりに聞き取れる場合があるが、、、
買って良かったです。「生成文法」の良解説書。
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生成文法についての手際の良い解説書を探していたら、この本に巡りあったわけなのだが、一読しての感想は、「非常に良い本」というものであった。
東大出版というところも、下世話ながら信頼性があり、ほとんど予備知識なしに書店で買ったのだが、色々調べてみるとかなりの人が「推奨」している「良書」ということで、買って良かったと思っている。
私は「ソシュール言語学」→「構造言語学(ヤーコブソン等)」→「言語哲学」という流れで読み進めてきたので、チョムスキーの提唱する「生成文法」にはかなりの偏見と抵抗があったのだが、本書の読後は、「こういう考え方もあるな・・・」という程度には「生成文法」を受け入れられているような気がする。
しかし、そうは言っても私にとって「言語能力」というのは、「人間の体(声帯や口など)」や「人間の脳(言語野の存在)」が遺伝的にそういう仕組の体を作っている、ということであって、そこを超えた「言語能力」となると、何ともユングの「アーキタイプ論」が頭をよぎり、その点については今でも揺るがない程に、「生成文法」の考え方には疑問が残る。
まあ、でもしかし、私如きがどうのこうのと言ったところで、何の価値も影響力も無いのは先刻承知しているので、これ以上は言うまい。
個人的に「賛成」「反対」と言えるところまで、「生成文法」の理解を手伝ってくれる本ということから考えても、この本は非常に良い本であるし、あとはチョムスキーの著作にあたる方が早いだろう。
そのくらいに、私には誰にでも薦めることができる、解説書であるということだけは、確実に断言できる本である。
生成文法の教科書として
★★★★☆
生成文法の入門書。私は言語学が専門ではないので個々の議論については云々できない。が、生成文法の理論モデルについては納得できた。
生成文法は「普遍文法」と「パラメータ」という二つの概念モデルによって言語一般を分析しようとする。
「普遍文法」というのは、およそ言語というものが(人間の生物学的特性上、とりわけ大脳の機能特性上)すべからく備えている一般的仕組みないし構造のことである。これは、言語が言語である以上、そして人間の言語である以上普遍的に備えていなければならない。それは、言語一般における「統語」の仕組み、つまりどのような言葉の並び方が文法的に正しい(意味がある)かを決定するような法則のことである。
といっても、そのような抽象的対象が「実在」するかどうかはひとまず問題ではない。そのような概念を理論的に仮定し、実際に様々な文法的に正しい用例が説明できればそれは理論モデルとして有効なのである(たとえば物理学における「力」はそういった概念の一つだろう)。
しかし、これだけでは様々な言語が持つ多様性を説明することができない。そこで「パラメータ」という概念を想定する。これは諸言語が別個に採用する「変数」である。
たとえば、英語には「in」や「for」といった前置詞が存在するが、日本語の場合は「東京へ」や「あなたに」の「へ」や「に」は後置詞というべき特徴を持っている。ここで、「前置詞/後置詞」というパラメータが想定される。英語は「普遍文法+パラメータ[前置詞]」と特徴付けられ、日本語は「普遍文法+パラメータ[後置詞]」と特徴付けられる(ただし、実際にはパラメータはデジタル、0か1で入力される)。
こうしたパラメータを必要かつ十分なだけ発見し、そして普遍文法の抽出に成功すれば、生成文法学派はすべての言語を一つの理論体系で包摂したことになる。そればかりか、「人間にはどのような言語が可能か」という予測さえたてることができるだろう(普遍文法をベースに、現行の言語にはないある任意のパラメータの組み合わせを採用すれば、とりあえず新しい言語ができあがる。ちなみに可能な言語の総数は、パラメータがn個あるとすれば2のn乗であることになる)。エレガントなモデルである。
あえて難癖をつけるとすれば、「人間の大脳に局所化された言語能力=生成文法が存在するから、あらゆる言語は一つのモデルに包摂される」という主張と、「理由は不明だが、とりあえず現行の諸言語すべてを一つのモデルに抽象化することはできる」という主張は両立しうるのではないか。やはり、生成文法が実証されるには「生成文法に基づく人工言語の創造」や「将来起こりうる文法変化の予測」といったパフォーマンスを実行せねばなるまい。
生成文法
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本書を読み始めると,読者は決して構えることなく読めることがわかる.著者は教えるという視点ではなく,読者と共に取り組んでいこうとする姿勢が感じられるのが良いと思う.また,生成文法とはどういう切り込み方で英文法に分け入っていくのかを噛み砕いているので記述の仕方も易しく初心者には広く勧められるものと思う.本書によって生成文法に関心の向く人が増えれば喜ばしいことだし,関連の和書・洋書にも目を向けると良いだろう.
東大出版会から出た本だからか,値段の張ることが少々気になる点だがこれを相殺して余りある内容だと指摘しておこう.
優れた入門書
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生成文法についてわかりやすく書かれた入門書。文献リストが詳しいため、次にどの本を読めばよいかがわかり、学習計画も立てやすい。他の本で生成文法に挫折した方に是非おすすめします。