音楽に素養がなくても充分に楽しめる
★★★★☆
読んだのは1年以上前で細かい記述は覚えていないが、長編ながら読み出したら面白くて徹夜で一気に読んだ気がする。ただ題材が音楽だけに演奏技術が未熟なせいで人を惹きつけるメロディになるとはどんなものか文字では実感できない。しかし音楽に素養のない私でも充分に楽しめる本である。
虚飾の経歴偽装?
★★★★☆
篠田には,音楽をテーマにした作品がいくつかある(「マエストロ」など)。どれも,一流又は一流になろうとする芸術家が心身を削って頂点を目指すという厳しい世界を描いており,全くの門外漢の私でも,大変な世界なんだなぁと思わせるものだ。また,素人受けする園子の演奏が,なぜ専門家には評判がよくないのかというのも,「なるほど」と思わせる説明がされていた。
事実を調査していくうちに,当初伝えられた内容とは異なる事実がだんだん見えているという点では,「第4の神話」などと同じである。篠田節子らしい,うまいストーリー運びだったと思ったが,園子が最後に選択した生き方(?)はちょっと疑問。篠田節子の描く中年女性は,もっとずうずうしく,逞しいのが普通だったように思うから。
大切な問題提起
★★★★☆
篠田節子さんの作品には、いくつかのジャンルがある。私の考えでは、文章やプロットなどにおいては、「神鳥―イビス」のような、深い情念を含んだホラーの方が完成度が高い。
しかし、「女たちのジハード」のような、社会風刺や批判を含んだものは、ホラーよりも広い読者を持ち、篠田さんの問題提起が含まれていて、多くの人の共感を生む。
この作品は、後者に属しているが、「女たちのジハード」と違ってミステリーのタッチを持っている。ここでは芸術とは何かという深い問題が扱われている。
至高の技術の上でないと、本当の芸術は生まれないのか。プロとして訓練を受けた人は、技術が完璧でない者が高い人気を得ることに不快感を持つことがある。しかし、ファンが喜ぶということ自体の価値を忘れてはいないだろうか。プロの目に頼って価値を決めることによって、クラシック音楽の世界は、多くの人を遠ざけているのではないか。
だが、現代の芸能界では、作られた感動的なストーリーによって生まれたヒロインもいるし、そのため消えて行った人もいる。
この作品のバイオリニスト園子は、クラシックの世界と、芸能界の狭間で生きながら、焦り、傷ついていく。
篠田さんは、自らが提示した問題を展開するが、結論を出すのは我々読者であろう。あるいは、我々もまた、疑問を持ち続ける。
大切な問題提起を含んだ、力のある小説である。
作られる流行
★★★☆☆
クラシック音楽に造詣の深い著者が書いただけあり、行間から音楽が溢れてくるようだった。
同時に、弦楽器への並々ならぬ愛情をも肌に感じることができる物語だ。
そしてこの本を読み進めるうちに、ふと「フジコ・ヘミング」を思い出した。
もちろん作者もある程度は意識していたと思うが。
自分は「フジコ・ヘミング」を有名にしたあのドキュメンタリー番組をリアルタイムで見ていた。
番組に感動し、フジコの音楽にも共感したのだが、あれよあれよという間に有名になり、
すっかり俗物と化していく彼女の生き様に哀しい思いを抱いたのも事実だ。
その時の感情を、この小説は見事なまでに再現してくれている。
「真の芸術性よりも奇異なキャラクター性」を重視され作り上げられてゆく流行という
ものの恐ろしさ。この小説の中で、祭り上げられたヴィオリストは「死」を選択するが、
現実世界の「彼女」はふてぶてしいまでに逞しく生き抜いている。
もはや真に美しいものは、小説の中でしか生きられないということを
この小説ははからずも教えてくれているような気がしてならない・・・・。
マスコミの怖さ
★★★★☆
テレビ制作会社の小野は、ビオラ奏者 柳原園子の演奏に魂を揺さぶられ、番組制作し好評を博すが・・・。
テレビによって暴かれた、賞の履歴や過去の失敗によって、実際の演奏を耳にした人たちの感動した心まで左右してしまうものでしょうか?
結局、みんな自分に自信がないから、テレビが決めた善悪に従ってしまうんでしょうね。
本当の才能とは?テレビの持つ怖さとは何か?色々と考えさせられる1冊です
篠田さんの音楽小説「カノン」「変身(文庫マエストロ)」も合わせてどうぞ。