氷原公魚全集 鮪編 (竹の子ガッ!Q文庫)
価格: ¥0
銀河の果てで、極限の冬山で。
1990年代末期に活躍した伝説のスラップスティックの妙手、
氷原公魚が帰ってきた!
銀河帝国のような気がするものの終焉のような感じの物語……【適当帝国のいい加減な最期】
冬山で遭難した男達の愛憎と相剋を描く遭難おでんBL……【冬山惨歌】
以上2編を収録。
【無料サンプル】
(「冬山惨歌」より)
……思えば、佐山と稲村は小学校の頃からの親友であった。稲村がいじめられ
た時は、すぐに飛んで行って助けてやったものだ。しかし、稲村が鍋を口実にして
昆布を独占したことに、佐山は何か裏切られたような気持ちがしてならなかった。
「お前はたしかに鍋を持ってきた。だけど、ガスコンロを持ってきたのは誰だ?」
ガスコンロを持ってきたのは、佐山である。
しかも佐山は途中でガスが切れても大丈夫なように、カセットボンベを2本持って
きていたのである。もし、1本だけだったらガスはもう無くなっていたであろう。
「だから、お前がそのつもりなら俺にだって権利がある」
裏切られた……その気持ちが、佐山から情けを奪った。
佐山は、本当に最後の最後まで取っておくつもりだった卵を口の中へ放り込んだ。
その瞬間、稲村の表情が驚愕に歪む。
言っておくが、卵のカロリーは高い。ゆで卵のカロリーは可食部100gあたり、
151キロカロリーである。この数字は、大根の19キロカロリーとは比較にならない
ほど大きい。まさしく、生死を分かつほどにだ。
それだけではない、卵に含まれるタンパク質の割合は、おでんの具として鍋にあ
る他の食品の追随を許さぬほど高いのだ。この極限状況下において、直接に熱量
として変換されるタンパク質の存在を無視できるほど心の広い人間がいるであろうか?
ましてや、ダシが染み込み茶色に色づいた卵を目前で噛み砕かれた時の衝撃は、
もはや筆舌に尽くしがたい。
「……佐山、てめえ!」
(……以下、衝撃の結末へ続く)
【著者プロフィール】
氷原公魚
一九七〇年六月二〇日生まれ。公魚と書いて「ワカサギ」と読む。
キュウリウオ目キュウリウオ科の魚類の一種で、食用魚。
北海道小樽市付近に生息。
水質が悪い状況や低水温や塩分にもへこたれない強い適応力を持ち、天ぷらに
しても美味しい。
電子書籍発行研究団体・竹の子書房の北海道支社勤務。
人間以外にも肉食魚や鳥類など、多くの敵に狙われている。
唐揚げにしても美味しい。
著作はParadise NOVELS刊「ばにぃはんたぁ零」などの他、パソコンソフトシナリ
オライターを経て、現在とても美味しい。
近著『氷原公魚全集 鰻編』をkindleからリリース中。