依頼者以上の思いを その手紙に込めながら
★★★★★
舞台は、1980年ごろの吉祥寺。
それぞれの物語は、代筆屋である筆者のもとに
様々な思いを胸にした依頼者が訪れることから始まる。
売れない小説家は、趣味と実益をかねて
他人になりかわり、手紙を書いていく。
ときに、
依頼者以上の思いを その手紙に込めながら。
吉祥寺で代筆屋をやっていた頃、一番得意としたのは恋文の代筆である。
もっとも、恋文の正しい書き方とか、マニュアルなどというものは存在しない。
だから、ここに紹介する手紙をそのまま写し書きしても無駄だ。
人間は心の中に鍵穴をいくつも持っていて、すべての扉を開けることが
できる殺し文句などは存在しない。合鍵はないのである。
人間一人一人に対して、一つ一つの鍵が必要となる。
・・・これが恋文の鉄則。(P112)
じんときた。
心を込めて綴る文字
★★★★☆
著者が小説を書きながら
手紙代筆の仕事もしていた頃のお話。
吉祥寺のコーヒー屋さんでの
依頼者と著者の会話と、
そしてその後書き綴った手紙が
掲載されています。
高校生のラブレター、
付き合いの長い彼への手紙、
昔捨てた子供へ宛てた結婚祝辞、
88歳の妻から90歳の夫への手紙、
死を目前にした祖母への手紙
***などなど。
手紙というものには
不思議な力があって、
人間の心を映す鏡のような存在。
封を開いた瞬間に、
書いた人間の気持ちが
ふわっと相手に伝わる。
心を込めて文字を綴った手紙を、
大好きな人たちや
お世話になった人たちに送ろう(*^^*)
そんな気持ちがあふれてくる1冊です☆
手紙のよさに気付かせてくれます
★★★★★
昔、書簡文学がもてはやされた時代があったけど、手紙には普通の小説には無い『味』がある。二人称の書き方や、小説ほど迂遠な展開は無く、ひとりの読み手を相手に気持ちを伝えようと手紙ならではの技法で書く文章に心を動かされる。達意な手紙を書くことは自分の気持ちをただ縷々と書き連ねるのでは無く、相手の気持ちを慮りながら、自分の気持ちをそっと差し込むような書き方が、この小説を読んでいると良いような気がした。
書簡文学への嚆矢と成りうる小説である。
道具としての手紙を超えて
★★★★☆
文庫の広告を見て興味を持ち、買いました。
手紙が交渉手段としてうまく行くかどうかは、
書く人の言葉遣いもあるかもしれませんが
書いた人にしか分からない感覚に受け取った人も応じられるか、
という読解力とか思いやりにもかかっていると思いました。
手紙を書いている姿を感じる想像力とか思いやりがなければ、
自分のことを一方的に押し付けてくる文章と取れなくもない。
代筆が結果を出すためには、代筆者と本当の差出人と宛先の人、
少なくとも三人の相性が合わなければならない。
作者の代筆者としてのその現状を見極める洞察力が注目点です。
ですから作者はこの本を手紙の書き方として説明していますが、
代筆でない手紙を書くには適さない、過剰に創造的な部分もあると思います。
代筆が嘘から出た真を生む点では縁の力、人間の潜在的な力を見たように感じ、
代筆が作者にとって収入源と小説を書く練習になった点はとても現実的な話だと思いました。
手紙の代筆実話はおもしろいが・・・
★★☆☆☆
小説家で食えないから手紙の代筆業をしていたという話はおもしろいし、
はじめのエピソードのように代筆した結果、
送った相手からまた代筆を頼まれるという話は
すごくおもしろいんだけど、
後の代筆エピソードは、代筆した内容そのもの自体が
いいのか悪いのかどうにも判断できないし、
結果どうなったのかもよくわからない。
そもそも手紙の大切さを知るなら
代筆という行為は気持ちを伝える「裏切り」のような気もする。
手紙の「添削屋」ならいいのだろうけど。