超弩級の衝撃作か、未曾有のやり過ぎか
★★★☆☆
大好きな作者の作品はペーパーバックを時系列で読むようにしていますが、日本に出張した際に“The Pact”と同様に米国版と同じ表紙のマスマーケットを発見し、即購入しました。
タイトルとフェミニンな表紙から心に染み入る感動作かと予想しましたが、全く違いました。今回のお得意のタブーは死刑制度と宗教ですが、過去に取上げた超常現象(“Keeping Faith”)、臓器提供(“My Sister’s Keeper”)、心臓手術(“Harvesting the Heart”)、性的虐待(“Salem Falls”)も加わり盛り沢山です。
ここまで総動員していますので、作者も相当力を入れたのでしょう。超弩級の衝撃作と評しても良いのですが、いまだ嘗てない程のやり過ぎとも感じます。特に微妙且つ無理筋なのは事件の真相部分で、“Salem Falls”と同様にこれまでの作者のパターンからある程度は読めてました。作者には余り欲張らず、過度の刺激を抑えてじっくり攻めて欲しいと思うのは私だけでしょうか。“The Pact”が作者の最高傑作と考える所以でもあります。
Picoultのベストではないが、読み逃したくない作品
★★★★☆
警官とその継子の少女を殺害した死刑囚のシェイは、死刑執行が迫った11年後に少女の妹に移植用の心臓を提供することを望む。母親は死が目前にせまった娘に憎い男の心臓を与えるべきかどうか葛藤するが、それだけがハードルではない。塩化カリウムで心停止させる通常の死刑では心臓を移植に使うことはできないのだ。
シェイがコンコード刑務所に移ってきてから奇跡が起こり始める。シェイの奇跡は暴力的な囚人たちやタフなガードたちを根本から変えてゆき、シェイをキリストの生まれ変わりと信じて奇跡を求める人々と冒涜者として糾弾する人々が刑務所の外でぶつかる。
陪審員としてシェイの死刑に票を投じたのがきっかけで宗教に身をささげた若い牧師とシェイの望みをかなえるために死刑の方法を変えようと働く若い女性弁護士は、それぞれ異なる葛藤を覚える。
カトリックとユダヤ教の関係や奇跡に対するキリスト教内での宗派の反応の差など、アメリカ合衆国に住んでいないとぴんとこないところもあるだろう。また、いつもの彼女の作品より複雑さと深みに欠けるような気もする。しかし、それでも読み終わった後Picoultの残した疑問について考えこまずにはいられないのは、優れた作品だからだろう。
自分がこの立場になったらどうしますか
★★★★★
日本に一時帰国する時に乗り継ぎで寄ったシンガポールの空港の本屋に、この本が山と積まれていた。この本のことはアマゾン・コムを通じて知っていたので、躊躇なく買って、空港のプールで泳いだ時間以外はこの本を読んでいた。飛行機の中でも読んで、新潟に帰る新幹線の中でも読んでいた。おもしろかった。
本の題名、「Change of Heart」と、キャッチフレーズの、Would you grant your enemy’s dying wish to save your child’s life?からも伺えるように、夫と娘を殺した男が死刑の判決を受けた後で、心臓病の持病を抱えるもう一人の娘(殺された娘の妹)、に自分の心臓の提供を申し出る、という、作者は相変わらず「My Sister’s Keeper」の時に見せたような大胆な発想を背景として話を進めていく。
作者がこの話の中で伝えたかったことは、死刑制度の賛否、人間の尊厳と宗教とのかかわり、アメリカの中のゆがんだ社会、親として或いは妻としての葛藤、一方でそれらの混沌とした問題を何とか解決したいと奔走する良き人たちの活躍などであると思うのだが、難しい問題に取り組んでいる作者の真摯な態度がひしひしと伝わってくる。
一方で、ストーリー性の見事さはさすがで、447ページという大作ではあるが退屈しなかった。宗教問題の記述については原文も内容も中々理解できなくてつらかったが、筋書きは十分に追うことが出来た。おかしかったのは、作中で弁護士が、「John Grishamではあるまいし、」と言うところで、いかにこのベストセラー作家がアメリカ社会に浸透しているかを思い知った。
これ以上書くことはこれからこの本を読む人の興味を失わせることになるので差し控えるが、中々の力作であり今後反響を呼ぶ本になるであろう、と最後に言っておきたい。