「欲望の植物誌」とは、人間がリンゴなどの作物を利用(=栽培して食べる)しているのではなく、植物が版図を広げるため人間を利用しているのではないか、という逆転の発想を意味する。具体的にはリンゴ、チューリップ、マリファナ、ジャガイモの4つが取り上げられ、それぞれ「甘さ」「美しさ」「陶酔」「食」の観点から論じられる。たとえばリンゴなら、ひたすら甘くなることに成功した品種だけが広く栽培されることになるのである。
別に学問的な著作というわけではなく、作物の改良を進化の観念にからめながら様々なアイディアが開陳される。アイディア自体にはそれほど独自性が感じられないが、語り口の柔らかさ、実際に作物を栽培することの面白さもあり、非常に面白かった。
ジャガイモの章では遺伝子組み替え技術について論じられており、悪くはないが忌避するという著者の対応は予想通りだったものの、農業技術の進歩に驚愕させられた。
著者の基本的態度は「甘さ」などが偏重され、単一品種栽培が広がることへの反対にあり、ことあるたびに原種の多様性が言及される。確かに色とりどり、さまざまな味、大きさのリンゴのある世界の方が魅力的だとは思う。しかし現実の世界がそれを選択しなかったのはなぜか。その点については次の著作で取り上げられるらしい。